Journal of Forest Research Vol.28 No.4(2023年8月)

種類: 原著論文/Socioecnomics, Planning, and Management

Title:  Land-cover changes and deforestation drivers in the forest landscape of Banmauk township in the Sagaing Region of upper Myanmar

巻頁: J For Res 28 (4): 231-239

題名: ミャンマー奥地・サガイン行政区バンマウク町区の森林景観における土地被覆の変化と森林伐採の要因

著者: Tin Hnaung Aye,柴田昌三

所属: 京都大学農学研究科

抄録: 本研究ではミャンマー・サガイン行政区のバンマウク町区の森林景観について,森林伐採の要因と土地被覆の変化に関する解析を2000年と2021年の衛星画像の比較に基づいて行った.無作為tree classification手法によって7種の土地被覆区分を行うために,LANDSAT 7 ETM+とLANDSAT 8 OLI の衛星画像を用いた.次いで,二項ロジスティック回帰分析によって,森林伐採に及ぼした影響について,生物物理学的的視点と立地的視点から要因を推定した.また,分類された土地被覆地図の正確度を検討したほか,面積の推定には層化抽出法を用いた.その結果,密な森林の被覆率は2000年の45.65%から2021年には29.01%に減少していた.一方,疎林は49.33%から54.51%に増加していた.採鉱地については0.37%から5.35%とかなりの増加が示された.また,居住地と裸地/灌木地はそれぞれ,0.16%から0.51%,1.71%から7.70%に増加していた.農地は2.11%から2.33%にわずかに増加していた.一方,水面はほぼ0.60%で変化はほとんどなかった.土地被覆分類後の変化抽出法による解析の結果,森林の減少は森林が採鉱地と裸地/灌木地に変化することによって生じていることが明らかになった.また,本研究によって,低標高地と道路からの距離が森林伐採の可能性を高めていることが示された.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2023.2185185

 

 

種類: 原著論文/Forest Environment

Title: Vertical changes in sulfur isotopic ratio of water flowing through a forested catchment along the coast of the sea of Japan in central Japan–a buffer against seasonal transboundary air pollution

巻頁: J For Res 28 (4): 240-250

題名: 日本海沿岸の森林集水域を流れる水の硫黄同位体比の鉛直変化-季節的な越境大気汚染に対する緩衝

著者: 齋藤辰善, 中田誠, 山下尚之, 猪股弥生, 内山重輝, 大泉毅, 佐瀨裕之

所属: 新潟大学農学部

抄録: 大気沈着に由来する酸性物質,特に硫黄(S)化合物は,森林生態系の酸性化に大きな役割を果たしている.本研究では,歴史的に越境大気汚染の影響を受けてきた中部日本の森林集水域において,季節的に大きくなるS流入に対する緩衝システムを明らかにするためのフィールド調査を行った.その結果,冬季はアジア大陸からの北西風により大気Sフラックスが有意に増加し,寒冷期と温暖期ではそれぞれ1.1kmolc ha–1と0.3kmolc ha–1であった.大気沈着の大きな季節性にもかかわらず,河川水(SW)中のSO42–濃度は年間を通じて比較的安定していた.同様に,雨水中のS同位体比(δ34S)は,冬季に12‰に増加し,夏季に2‰に減少するなど,明確な季節変動を示したのに対し,SWのδ34S値は年間を通じて~9‰で安定していた.降水(RF),林内雨,樹幹流,SWのフラックス加重平均δ34S値は,それぞれ8.5,9.5,9.0,9.0‰と類似していた.RFおよび土壌溶液中のδ34S値とSO42–濃度の両方がSWの値に収束しているようであり,大気沈着がSWの主要なS起源であることを示唆した.リターフォールからは比較的小さな生物学的硫黄サイクルが示唆されたが,土壌中の硫黄吸脱着が,大量の硫黄流入を主に緩衝し,突然の酸性化を防いでいると考えられた.変化する気候の下でこの緩衝システム内で起こりうる撹乱を,注意深く監視する必要がある.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2023.2198113

 

 

種類: 原著論文/Forest Environment

Title: Effects of thinning on tree growth and soil physiochemical properties in Cunninghamia lanceolata plantation

巻頁: J For Res 28 (4): 251-259

題名: 間伐がコウヨウザン(Cunninghamia lanceolat)植林地の樹木成長及び土壌理化学性に及ぼす影響

著者: Xuehui Li, Ruihui Wang, Kaili Liu, Yuhuai Zhou, Jiayi Hu

所属: Central South University of Forestry and Technology, China

抄録: Tree growth, along with soil properties, is greatly affected by forest management. We used a typical sampling to study the impact of four thinning intensities (T1: 0%, 2500 stems ha−1; T2: 20%, 2010 stems ha−1; T3: 30%, 1750 stems ha−1; T4: 40%, 1500 stems ha−1) on the tree growth and soil physicochemical properties and their correlation in Cunninghamia lanceolata plantations. The average annual increments in tree height, diameter at breast height (DBH), and volume increased with thinning intensity, and those of T4 differed significantly (P < 0.05) from those of T1. The average annual stand volume increments of T4 were significantly (P < 0.05) lower than that of T1, while the maximum value presented at T3. However, the effect of thinning in promoting the growth of Chinese fir diminished with time. As the thinning intensity increased, the diameter class distribution of the sample stands moved rightwards. Moreover, thinning improved soil physiochemical properties. The effects of thinning on soil properties in 0–20 cm soil layer were greater than those in 20–40 cm soil layer. There was a positive correlation between available nitrogen, available potassium and tree growth. The results of this study showed that thinning had a potential effect on tree growth and soil properties. The heavy thinning intensity (approximately 1500 stems ha−1) was the optimum for maintaining economic and ecological benefits. However, heavy thinning significantly reduced stand volume. From the perspective of improving stand volume and biomass, a moderate thinning intensity (approximately 1750 stems ha−1) could be considered for adoption.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2023.2198156

 

 

種類: 原著論文/Silviculture and Plant Sciences

Title:  Influences of fern and vine coverage on the above-ground biomass recovery in a Bornean logged-over degraded secondary forest

巻頁: J For Res 28 (4): 260-270

題名: ボルネオ伐採後二次林の地上部バイオマス回復へのシダ・ツル被覆の影響

著者: 竹重龍一,今井伸夫,青柳亮太,澤田佳美,Robert Ong,北山兼弘

所属: 京都大学農学研究科

抄録: 熱帯二次林の地上部バイオマス(AGB)は二次遷移の進行に従って,撹乱後数十年で伐採前の水準と同等レベルまで回復するとされている.しかし,実際のボルネオ島の伐採後二次林では,林床や林冠がシダやツルの群落によって被覆され,伐採後数十年が経過したにも関わらず,AGBが回復していないと思われる林分が広大な面積で見られる.本研究では,今まで十分に注目されてこなかった,シダ・ツルに覆われた森林のAGB回復が停滞するメカニズムを明らかにするため,シダ・ツルの被度が異なる半径20mの円形プロットを17個設置し2014・19年に地上調査を行った.シダ・ツルの被度に応じて5年間で新規加入する樹木個体数は低下し,樹木の死亡率も上昇した.また,個体の相対成長速度は,シダ・ツルに樹冠が被覆された遷移初期種で低下した.その結果,林分レベルでの地上部バイオマス増加速度はシダ・ツルの被度の高い林分で特に低下し,2014年のバイオマスが低くかつシダ・ツルの被度が高い森林では増加速度が負になることもあった.このことは,レジリエンスは高いと報告されていた熱帯雨林においても,条件によっては二次遷移が停滞し,従来考えられていたよりも回復までに時間がかかる・あるいは回復不能に陥ってしまう可能性があることを示唆している.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2023.2187682

 

 

種類: 原著論文/Silviculture and Plant Sciences

Title:  Homogenization of understory vegetation by an overabundance of deer (Cervus nippon) in a temperate forest in central Japan

巻頁: J For Res 28 (4): 271-279

題名: 中央日本の温帯林での過密度化したニホンジカ(Cervus nippon)による下層植生の均質化

著者: 深町篤子,吉田智弘,星野義延,渡辺直明

所属: 東京農工大学大学院

抄録: シカによる過採食は,植物群落の構造や組成を均質化する選択的撹乱の一つである.山地では特に,地形が植物群落の構造や組成に影響を与えるが,シカによる採食と地形が植物群落に及ぼす複合的な影響に関する研究は少ない.本研究では,日本の山地にある落葉広葉樹林において,シカの排除が下層植生に与える影響について,傾斜遷急線を境とした斜面上部・下部で調査,比較した.柵内と柵外(対照区)の6組の調査区を,各地形に3組ずつ設置した.2009年から2016年にかけての草本層の植生の構造(被被率、高さ),種数,開花・結実種数,シカの採食種数,種組成の変化を解析した.調査期間中,植被率および開花・結実した種数は,柵内で増加した.本サイトでは,採食によって草本層の種が開花・結実期に達することができないことが示された.また,柵内と柵外の種組成の非類似度は,斜面上部において増加した.しかし,斜面上部と下部の柵外の非類似度は減少する傾向であった.広葉草本や多年草を主体とする大型草本は,斜面下部において特徴的に多かったが,柵外で減少した.これらの結果から,シカの過採食は斜面上部と下部の下層植生に異なる影響を与え,植物の生活型と地形の関係性を弱め,植物群落を均質化させていることが示唆された.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2023.2195217

 

 

種類: 原著論文/Silviculture and Plant Sciences

Title: Seasonal changes in leaf water relations in regards to leaf drought tolerance in mature Cryptomeria japonica canopy trees

巻頁: J For Res 28 (4): 280-288

題名: 熟したスギ林冠葉の葉の乾燥耐性の季節変化

著者: 井上裕太,荒木眞岳,北岡哲,釣田竜也,阪田匡司,齊藤哲,田中憲蔵

所属: 森林総合研究所・国際農林水産業研究センター

抄録: スギの乾燥害の発生は季節変化することが知られているが,その生理的なメカニズムには不明な点が残されている.本研究では,43年生のスギ林のシュート成長,葉面積当たりの葉重(LMA),原形質分離時の水ポテンシャル(Ψtlp),夜明け前(Ψpre)および日中(Ψmid)の水ポテンシャル,浸透ポテンシャル(Ψs),最大蒸散速度,および最大気孔コンダクタンスの季節変化を測定し,シュート成長期とΨtlpの季節変化の関係,および安全マージン(ΨmidΨtlp)に焦点を当て,スギが乾燥に最も脆弱な季節を特定した.当年シュートの成長は4月に始まり,高い成長が8月まで続いた.Ψtlpは一年を通じて大きく変動し,特にシュート成長期に高い値を示した.秋から冬にかけてLMAが増加し,Ψsが減少することにより,Ψtlpは低下した.夏には高い蒸散活動によりΨmidΨtlpに近づいたが,冬には蒸散速度の減少に伴ってΨmidが上昇した.つまり,安全マージンは冬に比べ夏に小さくなった.これらの結果から,スギはシュート成長期の高いΨtlpと蒸散活動により,夏の乾燥に最も脆弱であることが示唆された.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2023.2205719

 

 

種類: 原著論文/Forest Health

Title: Early successional habitats created through plantation harvesting benefit the Gray Nightjar (Caprimulgus jotaka): An 8-year survey in central Hokkaido, northern Japan

巻頁: J For Res 28 (4): 289-296

題名: 人工林の主伐によって創出される遷移初期生息地はヨタカに利益をもたらす:北海道中央部での8年間の調査

著者: 河村和洋,山浦悠一,中村太士

所属: 森林総合研究所野生動物研究領域、北海道大学農学部森林科学科

抄録: 遷移初期生息地とそこに関連する生物種(遷移初期種)は世界的に減少してきた.一方で,人工林は拡大し,その幼齢段階(10年生以下)は遷移初期生息地として機能しうる.夜行性鳥類の一種であるヨタカ(Caprimulgus jotaka)は,森林に囲まれた遷移初期生息地で繁殖・採餌することが知られるが,国内では1970年代から大きく減少してきた.北海道ではヨタカは暖かい地域に多いことが示されているため,こうした地域で人工林の主伐によって生息地を創出することでヨタカの個体数や占有率の回復を促進できると期待されている.本研究では,人工林の主伐がヨタカの占有率に及ぼす影響を調べるため,北海道中央部の人工林景観で8年間のプレイバック調査を行った.気温の代替指標として標高の影響を考慮した.調査・解析の結果,調査した林分の中心から半径500 m圏内の幼齢林面積が増加するとヨタカの占有率が向上すること,標高は占有率に負の影響を及ぼすことが分かった.そのため,標高が低い場所ほど人工林の主伐に伴う幼齢林面積の増加による占有率の増加幅がより大きいと予測された.これらの結果は,景観内の幼齢林の創出がヨタカの保全に貢献することを示唆している.人工林伐採によって遷移初期種の生息地を効果的に創出するためには,その場所の気候や標高を考慮することが重要である.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2023.2195038

 

 

種類: 原著論文/Forest Health

Title: Effects of plantation intensity on longhorn and carabid beetles in conifer plantations mixed with broadleaved trees in northern Japan

巻頁: J For Res 28 (4): 297-304

題名: 北日本の広葉樹が混交した針葉樹人工林におけるカミキリムシ類・オサムシ類への植栽強度の影響

著者: 入江雄,河村和洋,山中聡,中村太士

所属: 北海道大学

抄録: 木材生産と生物多様性の保全の両立は重要な課題である.針葉樹人工林に広葉樹を混交させると,広葉樹天然林を好む生物種の個体数が増加するが,針葉樹の収量の減少にもつながりうる.よって,針葉樹や広葉樹と様々な分類群の個体数の関係をモデル化することは,効果的な生物多様性保全には不可欠である.カミキリムシ類やオサムシ類は有用な環境指標であるが,林分内の針葉樹や広葉樹の量(例えば,胸高断面積合計[BA]や被度)に対する応答は明らかにされていない.そこで本研究では,混交した広葉樹の量が様々なトドマツ人工林,アカエゾマツ人工林,そして広葉樹天然林において,カミキリムシ類やオサムシ類の個体数を調査し,林分内の針葉樹BAに対する各分類群の応答を解析した.カミキリムシ類では予想外なことに,幼虫時に宿主として広葉樹を用いる種では針葉樹BAの影響はみられず,ジェネラリスト種に対しては針葉樹BAが正の影響を及ぼした.オサムシ類では,森林に依存する種の総個体数が針葉樹BAの増加に伴ってほぼ線形に減少した.種レベルの平均的な応答も針葉樹BAの増加に対する減少パターンを示したが,その減少速度は針葉樹BAが小さい範囲でより速かった.これらの結果は,多くの種に対して少量であっても針葉樹が大きな負の影響を及ぼすことを示唆している.木材生産とオサムシ類の保全を両立させるためには,残存する広葉樹天然林を維持することや広葉樹を多く含む不成績人工林を広葉樹林へ戻すことが重要である.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2023.2198111

 

 

種類: 短報/Silviculture and Plant Sciences

Title: Spatial heterogeneity analysis for estimating breeding values of tree height in a hybrid larch progeny test plantation

巻頁: J For Res 28 (4): 305-311

題名: 雑種グイマツF1検定林における樹高の育種価を推定するための空間異質性解析

著者: 陳淑芬,石塚航,黒丸亮,後藤晋

所属: 東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林

抄録: Microenvironmental heterogeneity in forest stands results in spatial variations in growth traits. Especially in progeny tests in tree breeding, this spatial variation can prevent the accurate estimation of genetic parameters, including breeding values. To quantify spatial heterogeneity, genetic models incorporating spatial coordinate information have been effectively used to accurately estimate breeding values of individuals. In this study, we measured the height of all Japanese larch and hybrid larch individuals in a progeny trial at 1, 2, 5, 10, and 15 years after planting and calculated genetic parameters, including breeding values, using genetic models. According to the fittings of the candidate models, a genetic model incorporating spatial coordinate information is more suitable for estimating genetic parameters. Overall, a genetic model incorporating spatial coordinate information could be effective in explaining the genetic effects of tree height, which will be useful for estimating more accurate breeding values in hybrid larch breeding programs.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2023.2198132

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