日本森林学会誌106巻8号(2024年8月)

[論文] 光環境の違いがコナラ植栽木の成長と生残に及ぼす影響

中島 春樹(富山県農林水産総合技術センター森林研究所)
キーワード: 広葉樹人工林, 保残伐, 散乱光透過率, 誤伐, 先枯れ
2024 年 106 巻 8 号 p.215-224
https://doi.org/10.4005/jjfs.106.215
[要旨] ナラ枯れ跡地やコナラ材を収穫した保残伐跡地においてコナラの植栽が行われているが,保残木があるため光環境は多様である。光環境の違いがコナラ植栽木の成長と生残に及ぼす影響を明らかにするため,富山県内のコナラ人工林22事業地において,1事業地当たり2調査区を設けて植栽5年後の生育状況を調べた。3事業地は皆伐跡地,19事業地は保残伐跡地で,毎年下刈りが実施された。調査区の散乱光透過率は5~94%と大きな幅があり,保残木の多寡と対応していた。暗い環境では先枯れによる樹高低下が多発した。モデル式の推定値に基づくと,散乱光透過率24%未満では樹高成長ができず,16%未満では生存率が66.6%未満に低下したことから,このような暗い環境は植栽に不適と考えられた。樹高は明るいほど高かったが,生存率は中間的な明るさの散乱光透過率50%前後で高かった。4調査区で調べたところ,明るいほど競合植生が繁茂し,誤伐率は高かった(最大50%)ため,これらが明るい環境での生存率の低下要因だと推測された。散乱光透過率が50%前後だと樹高成長は緩慢だが生存率は高く保たれやすく,コナラの人工更新が成功しやすい可能性がある。

[論文] 天然林択伐施業における積雪期かき起こしの有効性

坂井 励(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター雨龍研究林)ほか
キーワード: 天然下種更新, カンバ, ササ, 天然林施業, 更新補助作業
2024 年 106 巻 8 号 p.225-232
https://doi.org/10.4005/jjfs.106.225
[要旨] 北海道では天然林を対象に広く択伐施業(天然林施業)が行われてきた。しかし期待した更新成果が得られず,その結果天然林資源の減少と質の劣化をもたらした。その解決策として更新の阻害要因であるササ類を重機で剥ぎ取る更新補助作業(かき起こし)の有効性が確かめられている。しかし伐採後,林内に散在する施工地(択伐跡地)にアプローチすることは技術的コスト的に困難であるとともに,必要以上の攪乱を森林に与える危険性があり広く実施されるには至っていない。そこで本研究では積雪期の伐採時に行われる立木周囲の除雪作業の際に,林床のかき起こしを同時に行う手法(立木除雪かき起こし)を試みた。その作業コストと天然更新の成績を無施工対照区および無雪期かき起こし区と比較した。立木除雪かき起こしは更新作業のみで比較すると無雪期かき起こしの1/3のコストで実施することができた。6年生の高木性稚樹の更新はダケカンバを中心に約90%の施工区で周囲のササの高さ(平均145 cm)を超え,約70%の施工区で1,000本/haの成績を達成した。立木除雪かき起こしは北海道の天然林択伐施業を再構築するうえで重要な作業の一つとなりうると考えられた。

[論文] 林業大学校の学生に対する質問紙調査から見えてきた学生の傾向と各校の特徴

小川 高広(京都大学大学院農学研究科)
キーワード: 学生調査, 質問紙調査, 職業教育, 森林・林業教育, 林業大学校
2024 年 106 巻 8 号 p.233-244
https://doi.org/10.4005/jjfs.106.233
[要旨] 本稿では,静岡県,長野県,京都府,島根県の林業大学校を対象に2018年度から2022年度まで実施した学生調査の結果を報告する。学生の属性について,4校全体の傾向と各校の特徴を明らかにするとともに,今後の林業大学校の在り方を考察した。4校全体では,学生の9割が男性で,主に20代が学んでいた。保護者の林業従事や実家の山林所有は限られていた。学生は,普通科系の高校を卒業し,家族や教員等の紹介で林業大学校のことを知っていた。各校では,それぞれの特徴が見られた。静岡は,20代や県内出身者が学び,教員の紹介で林業大学校のことを知っていた。長野は,女性や県外出身者の割合が高かった。京都は,少数ながら40代や50代も見られた。府外出身者や社会人経験者の割合が高く,インターネットで林業大学校のことを知っていた。島根は,男性や県内出身者の割合が高く,全員が高校卒であった。以上のように,4校に共通した傾向とともに各校の特徴が見られた。これらを踏まえ,林業大学校は学生の傾向や特徴に合わせた学生募集および教育活動を実施することが重要であるとともに,林業の包括的な人材育成拠点として進化していくことが期待される

[論文] スギのさし穂長が発根および発根後当年のコンテナ苗の成長に与える影響

大平 峰子(国立研究開発法人 森林整備・研究機構森林総合研究所林木育種センター)
キーワード: さし木コンテナ苗, 電熱温床, さし穂の長さ, 育成期間の短縮
2024 年 106 巻 8 号 p.245-250
https://doi.org/10.4005/jjfs.106.245
[要旨] 主伐の増加に伴い,さし木苗の不足が懸念されるため,さし木苗生産においては採穂木当たりの採穂数を増やし,育苗期間を短くすることが求められる。穂を短くすることで採穂数の増大が見込めることから,本研究では短い穂から1年でさし木コンテナ苗の育成が可能かを検討するため,10~30 cmの穂を鹿沼土にさしつけ,発根後ただちに肥料入り用土を充填したコンテナへ移植し1成長期育成する試験により,穂長と1成長期後のコンテナ苗の苗高の関係を調査した。1月下旬にさしつけた穂は,電熱温床による加温があれば3月中旬以前,加温なしでは4月下旬から発根した。線形混合モデルによる解析の結果,さしつけから発根までの日数が短いほど,また穂が長いほど苗高が大きくなる関係が示された。移植日から成長可能日数を推定し,苗高との関係を解析した結果,平均苗高30 cmのコンテナ苗を得るためには,10 cmの穂では5月中旬までに,15 cmの穂では6月下旬までに移植が必要と推定された。10~15 cmの穂は定法の穂より短く採穂数の増大が見込めるため,本研究で示した方法でさし木苗の生産を行うことにより,さし木苗の増産に貢献できると考える。

[短報] カラマツ植栽木の初期成長に及ぼす粘土化したテフラの透水性および硬度の影響
―北海道胆振東部地震による地すべりで発生した裸地斜面を対象として―

蓮井 聡 (北海道立総合研究機構林業試験場)ほか
キーワード: カラマツ, 粘土化したテフラ, 土壌透水性, 土壌硬度, 北海道胆振東部地震
2024 年 106 巻 8 号 p.251-256
https://doi.org/10.4005/jjfs.106.251
[要旨] 2018年北海道胆振東部地震による地すべり(テフラ層すべり)で発生した裸地斜面において,カラマツ植栽による森林再生を検討するための試験地を3カ所設定した。表土に粘土化したテフラが認められた高丘B,幌内試験地は,残存テフラが多い高丘A試験地と比べて土壌の透水性が低く,硬かった。透水性の低さおよび硬さは,高丘Bは中程度,幌内は重度に不良であった。各試験地に植栽後3年目において,高丘Bでは,高丘Aと比べてカラマツの樹高,直径,樹高成長量が有意に小さかった。幌内では,高丘Bと比べてカラマツの樹高,直径,各成長量,各成長率が有意に小さかった。これらの結果は,当該地すべりで発生した裸地斜面においては,第一に,粘土化したテフラの透水性の低さおよび硬さがカラマツ植栽木の初期成長阻害要因であること,第二に,粘土化したテフラでは,透水性が低く,硬いところほど,カラマツ植栽木の初期成長は小さくなることを示唆している。

[短報] 開花竹林の段階的な変化に関する分類方法の検討

小林 慧人(国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所関西支所、京都大学大学院農学研究科、京都大学大学院農学研究科)ほか
キーワード: 有性繁殖, 一回繁殖, 一斉開花, 見本林, 植生動態
2024 年 106 巻 8 号 p.257-262
https://doi.org/10.4005/jjfs.106.257
[要旨] タケ類(イネ科タケ亜科)は,長期にわたり栄養成長を続けた後,一斉開花性と一回結実性を示す特徴が知られる。開花後,竹林は時間の経過と共に衰退・枯死と段階的に変化するが,この過程はこれまで客観的な指標に基づき理解されてこなかった。本研究では,開花から開花後の衰退・枯死過程にある様々な状態の竹林を記述する方法を検討した。開花竹林内のラメット(竹稈)の状態に着目し,文献調査や筆者らの野外観察に基づきラメットを11段階(大きくは,非開花,開花・結実,開花後の衰退,枯死の4段階)に分類できることを提案した。京都大学のタケ見本園において,2017年から2022年に開花した3属4種2品種の竹植栽区画を対象にこの分類方法を適用し,開花時の状態のみならず,衰退から枯死過程の状態も含めて統一的に記述することが可能であることを確認した。また,開花から枯死までに1年以上の時間を要することも明らかにした。