Journal of Forest Research Vol 15, No 5 (2010年10月)

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種類: 原著論文/社会経済-計画-経営
Title:  Effect of settings of digital fisheye photography to estimate relative illuminance within forest under low light conditions
巻頁: J For Res 15 (5): 283-288
題名: 低照度条件下でのデジタル全天空画像の撮影条件が相対照度推定に与える影響
著者: 山本一清,小林健嗣,野々田稔郎,井上昭夫,溝上展也
所属: 名古屋大学大学院生命農学研究科
抄録: 低照度条件下の林内でのデジタル全天空画像の撮影条件が相対照度(RI:%)推定に与える影響を、数種類の推定指標により評価した。用いた指標はCanopy openness(CO:%), Sky Factor(SF:%), Diffuse transmittance (DIF:%)で、デジタルカメラのAutoモードによる露出(以下、Auto露出)設定および林外の開放地におけるAutoモードの露出(以下、基準光露出)設定によりmanualモードで撮影されたデジタル全天空画像から算出された。さらに、画像解析を要せず、基準光露出設定およびAuto露出設定におけるF値とシャッタースピードのみから算出される新たな指標(%Exposure)を提案し、各推定指標とともにRIとの関係を検討した。その結果、Auto露出設定によるデジタル全天空画像から算出された推定指標はいずれもRIと有意な相関関係は認められなかった。一方、基準光露出設定によるデジタル全天空画像から算出された推定指標および%Exposureは何れもRIと有意な相関関係が認められ、その中でも%Exposureは他の推定指標よりも僅かに高い相関関係を示した。

種類: 原著論文/社会経済-計画-経営
Title:  Long-term ecological impacts of clear-fell logging on tree species diversity in a subtropical forest, southern Japan
巻頁: J For Res 15 (5): 289-298
題名: 亜熱帯林における林木種多様性に対する皆伐施業の長期の生態インパクト
著者: 藤井新次郎,久保田康裕,榎木勉
所属: 九州大学大学院生物資源環境科学科
抄録: 森林施業における伐採地の空間配列と伐採周期の長さを定義することは、天然林で木材生産と生態系サービスの維持管理の間の潜在的な対立を調整するために重要である。本研究は、個体ベースモデルSEIB-DGVMを用いて琉球列島の亜熱帯林における木材生産と林木種多様性に対する長伐期の皆伐の影響を調べた。モデルシミュレーションでは、皆伐の空間スケールとして仮定した再生過程と森林タイプの組み合わせにより6つの伐採のシナリオを想定した。これらのシナリオで20から150年までの伐採周期で皆伐実験を行った。短伐期は萌芽種であるスダジイの優占や種数の減少をもたらした。組成の変異は、周囲の森林からの種分散の欠如により加速された。シミュレーション分析の結果から、木材生産と林木種多様性の回復の間のトレードオフは、孤立林分あるいは未成熟林分に囲まれている林分より成熟林に囲まれた林分においてより緩和されることが示唆された。モデルシミュレーションに基づいた生態リスク評価は、経験的な知見に依存した森林管理に代わる一案を提示した。

種類: 原著論文/社会経済-計画-経営
Title:  Aboveground biomass equations for individual trees of Cryptomeria japonica, Chamaecyparis obtusa and Larix kaempferi in Japan
巻頁: J For Res 15 (5): 299-306
題名: 日本におけるスギ、ヒノキおよびカラマツ単木の地上部バイオマス推定式
著者: 細田和男,家原敏郎
所属: 森林総合研究所 森林管理研究領域
抄録: スギ、ヒノキおよびカラマツ同齢単純林において、単木の幹枝葉別の地上部バイオマスを求める汎用の推定式を提案した。全国各地の247林分から収集された1,016本の伐倒調査データを用い、RMSE、バイアス、寄与率に相当するFit IndexおよびAICによって5種類の回帰モデルを評価した。その結果、いずれの樹種・部位についても、胸高直径(D)と樹高(H)の両方を独立変数とするべき乗式が最も適合性が高かった。このべき乗式は、相対成長式としてより一般的に用いられているD2Hのべき乗式よりもあてはまりが良好であり、加えて形状比が小さい立木のほうが枝葉が多いことを表現できる特長がある。Dのみを独立変数とする回帰モデルの中では、Dのべき乗式の適合性が良好であり、また枝・葉バイオマスについては、D2Hのべき乗式よりもDのみのべき乗式のほうが推定精度が高かった。枝・葉バイオマスの推定誤差は幹バイオマスの推定誤差より大きかったが、地上部全体で評価すると、DとHのべき乗式の平均推定誤差率は、胸高直径10cm未満の小径木を除き19%未満であった。

種類: 原著論文/生物-生態
Title:  Camera-trapping at artificial bathing sites provides a snapshot of a forest bird community
巻頁: J For Res 15 (5): 307-315
題名: 人工水場のカメラトラップで撮らえる森林性鳥類群集の一指標
著者: 関伸一
所属: 森林総合研究所九州支所
抄録: カメラトラップによる鳥類調査における誘引手法として,人工水場の有効性を検討した。日本の南西部に位置するトカラ列島中之島の鳥類群集を,人工水場におけるカメラトラップ法,カスミ網による捕獲法,直接観察にもとづくポイントカウント法,の3つの異なる手法によって調査し,それぞれの手法で得られた種構成の指標を比較した。調査地は東アジアにおける主要な渡りの経路上に位置しており,林床の藪を一時的に利用して通過していく渡り鳥には,直接観察で確認しにくく,あまり鳴かない種が多く,伝統的なセンサス手法を補完する調査手法としてのカメラトラップ法の有効性を検討するのに適した対象種である。人工水場におけるカメラトラップで記録された鳥類の訪問頻度は平均で10.59回/カメラ日で,誘引手法を併用していない場合の既存の報告に比べて高かった。さらに,記録された23種が林内で選好する階層は多様で,また,それぞれの体サイズも多様であった。カメラトラップ法とカスミ網による捕獲法で記録される鳥類種の構成は有意に類似していたが,ポイントカウント法の結果と類似しているとは言えなかった。直接観察によらないカメラトラップ法と捕獲法による結果の類似は,林床性の渡り鳥が含まれる一方で林冠を主要な活動域とする種が含まれないことによると考えられた。以上の結果は,人工水場におけるカメラトラップ法による調査が,直接観察に依存する各種センサス手法を補完する簡便で非侵襲的な手法として利用できる可能性を示唆するものであった。

種類: 原著論文/生物-生態
Title:  Soil seed banks in a mature Hinoki (Chamaecyparis obtusa Endl.) plantation and initial process of secondary succession after clearcutting in southwestern Japan
巻頁: J For Res 15 (5): 316-327
題名: 南西日本における成熟したヒノキ人工林のシードバンクと皆伐後初期の二次遷移過程
著者: 酒井敦,酒井武,倉本惠生,佐藤重穂
所属: 国際農林水産業研究センター
抄録: 人工林皆伐後の二次遷移過程を明らかにするため、高知県香美市においてヒノキ人工林のシードバンクの組成と皆伐後の植生回復過程を調査した。皆伐前 (1999年春)に調査プロットを2カ所設置し、20cm×30cm×5cm(深さ)の土壌サンプルをそれぞれ25個、26個採集した。実生発生法により 42-44種、500-839個m-2の埋土種子を検出した。埋土種子には多くの先駆樹種が含まれていたが、遷移後期種は少なかった。1999年6月に人工林を皆伐した後、発生した実生の動態を4年間、また植生の種組成を6年間調査した。半分以上の実生が(皆伐した1999年でなく)2000年に発生しており、皆伐の季節が実生の発生に影響を与えたと考えられた。皆伐後19種が調査プロットから消失し、40種は皆伐後も生存していた。皆伐後43種が新しく出現し、このほとんどは埋土種子由来であった。クマイチゴなど7種の先駆樹種には皆伐後3年目からクローナル成長が見られた。主な先駆種はニホンカモシカにより被食されており、遷移過程に影響を与えていた。モミなどの遷移後期種は皆伐後に衰退していた。シードバンクは皆伐後の植生回復に大きく回復しているが、遷移後期種の回復には貢献していないと考えられる。

種類: 原著論文/生物-生態
Title: Long-term effects on tree regeneration of soil scarification with microtopography manipulation in mixed forests of central Hokkaido, northern Japan
巻頁: J For Res 15 (5): 328-336
題名: 北海道中央部の針広混交林における微地形を設定する地表かき起しが樹木種の更新に及ぼす長期的な効果
著者: 後藤晋,飯島勇人,木村徳志
所属: 東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林研究部
抄録: 北海道の針広混交林の択伐施業林における林冠構成種の天然更新は、林床植生として密生するササ類に阻害され、一般に貧弱である。そこで、これらの樹種の天然更新を促進するため、1979年にレーキドーザを用いて、地表をかき起しながら、3種類の異なる人工微地形(凸、平、凹)を設定した。かき起しから26年後には、6種の林冠構成種(イタヤカエデ、トドマツ、ダケカンバ、ウダイカンバ、ハリギリ、エゾマツ)がよく更新していた。カンバ類は更新木の上層を主に構成し、2種類の針葉樹(トドマツとエゾマツ)は下層を占めていた。6種のうち4種の更新密度は母樹となる同種蓄積が正に影響したが、耐陰性が低い樹種(2種のカンバ類、ハリギリ)は全樹種の蓄積合計が負の効果を持っていた。種子サイズが小さな樹種(エゾマツと2種のカンバ類)の実生密度は平や凹地形に比べて凸地形で多かった。十分な種子供給、小種子を持つ樹種に対する凸地形の提供、耐陰性の低い樹種に対する光環境の制御が、北海道中央部において望ましい樹種を更新させようとする際に考慮されるべきと考えられた。

種類: 短報/生物-生態
Title:  Difference between sprouting traits of Cercidiphyllum japonicum and C. magnificum
巻頁: J For Res 15 (5): 337-340
題名: カツラ(Cercidiphyllum japonicum)とヒロハカツラ(C. magnificum)の萌芽特性の違い
著者: 久保満佐子,島野光司,崎尾均,井鷺裕司,大野啓一
所属: 国土交通省国土技術政策総合研究所
抄録: カツラとヒロハカツラは多くの萌芽を持つ落葉高木である。カツラは山地帯の渓畔林で生育し、ヒロハカツラは主に亜高山帯の崩壊性の強い立地に生育するが、地域によっては混生する。埼玉県秩父市の大山沢渓畔林の上流域にある崖錐斜面では両種が生育しており、標高約1600mを境にカツラからヒロハカツラに移行する。本崖錐斜面に生育するカツラとヒロハカツラの個体の樹高階層および萌芽の直径階分布を調べ、両種の萌芽特性を比較した。その結果、ヒロハカツラはカツラより萌芽の直径は小さく、高木層に至らない成熟個体もあった。また、直径階分布から、相対的にカツラは少産少死型、ヒロハカツラは多産多死型の萌芽を生産していることが明らかになった。亜高山帯では、山地帯に比べ、積雪や風など厳しい環境条件であることが予想され、ヒロハカツラの萌芽形態は、カツラより厳しい環境で個体を維持するのに適していると考えられる。

種類: 短報/生物-生態
Title:  Decline of Pinus thunbergii Parlat. stands due to excess soil moisture caused by a buried andosol layer at a coastal sand site in Hokkaido, northern Japan
巻頁: J For Res 15 (5): 341-346
題名: 北海道の海浜砂地において埋没火山灰層がもたらした過湿によるクロマツ海岸林の衰退
著者: 真坂一彦,鳥田宏行,佐藤弘和,今博計,佐藤創,福地稔
所属: 北海道立総合研究機構 森林研究本部 林業試験場
抄録: 北海道長万部町におけるクロマツ海岸林の衰退要因としての過湿の影響を評価するため,4年間にわたり土壌含水率を調査した。また,現地から土壌(もとからある海浜砂,客土土壌,硬い埋没火山灰土)を採取して飽和透水係数(Ks)をもとめ,そして現地での埋没火山灰層の分布状況を調査した。さらに,過湿環境に対するクロマツの応答を評価するため針葉長も調査した。激害区における土壌含水率の分布は微害区のそれよりも不均質で,激害区の地表付近の土壌含水率は微害区より常に高い傾向があった。硬い埋没火山灰層は激害区に広く分布しており,Ksは10-5を示した。この値は埋没火山灰層が難透水性であることを示唆し,これによって激害区に過湿条件がもたらされたと考えられる。激害区のクロマツから採取された針葉は,微害区のクロマツから採取されたものより短い傾向があった。これは激害区のクロマツが高い水ストレスを受けていることを示唆する。今回の結果と,他の症状,たとえば樹冠の枯れ下がりや顕著な側方成長などを併せて考えると,長万部町のクロマツ海岸林の衰退原因は,難透水性の埋没火山灰層によってもたらされた過湿環境であると考えられる。

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