Journal of Forest Research, Vol.21, No.2(2016年4月)

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種類: 原著論文/環境
Title:  Effects of deep percolation on dissolved inorganic nitrogen exports from forested headwater catchments
巻頁: J For Res 21 (2): 57-66
題名: 深部浸透が森林源流域からの溶存無機態窒素流出に及ぼす影響
著者: 岩﨑健太・勝山正則・谷誠
所属: 北海道立総合研究機構林業試験場
抄録: 地下水の深部浸透量が異なる隣接した2流域において、深部浸透が溶存無機態窒素(DIN)流出に及ぼす影響を調べた。観測は滋賀県南部の花崗岩山地に位置する桐生水文試験地内の2つの支流域で行った。渓流からのDIN流出量は、流量と月一回の定期観測と降雨時の集中観測をもとに決定されたDIN負荷量との回帰式から推定した。DINの深部浸透量がとりうる値の範囲は、基岩地下水のDIN濃度と年間水収支から推定された水の深部浸透量の積として求めた。年間降水量の37~45%と-6~3%の水が深部浸透している流域において、DINの深部浸透量はDINのアウトプット(渓流水としての流出量と深部浸透量の合計)のそれぞれ34~76%と-18~8%を占めた。これは、前者の流域ではDINのアウトプットを推定する際に、DINの深部浸透量を無視できないことを意味している。さらに、上流域で深部浸透した水は桐生試験地内の下流域で流出していたことから、DINの深部浸透は下流の窒素収支に影響を及ぼしていると考えられた。したがって、DINの深部浸透を考慮に入れることは、森林源流域だけでなく下流域の窒素収支を評価する上でも重要である。


種類: 原著論文/環境
Title:  Fine root dynamics in organic and mineral soil layers of Cryptomeria japonica D. Don plantation
巻頁: J For Res 21 (2): 67-72
題名: スギ人工林における有機物層と鉱物土層での細根動態
著者: 田和佑脩・武田博清
所属:  同志社大学理工学研究科
抄録: スギ人工林において、有機物層と鉱物土層での細根動態と構造について調査を行った。細根(<1mm)の現存量は季節変化を示したが、1-2mmでの細根現存量は変化を示さなかった。根端の直径を<0.5、0.5-1、1-2mmに分類したところ、根端数密度(<1mm)と細根現存量(<1mm)は夏に高く、冬に低くなるという季節変化をしており、有意な相関を示し、根端動態が細根動態に影響していることが示唆された。細根構造を示す指標として根端数:根長比を測定した。根端数:根長比も根端数密度と同様の季節変化を示した。<0.5mmと0.5-1mmの根端は主に有機物層で生産されており、鉱物土層では0.5-1mmの根端が主に生産されていた。有機物層における<0.5mmの根端の高い生産性から、根端数:根長比が有機物層で高くなったと考えられた。これらの結果から、根端動態が細根動態と細根構造に影響していることが示唆された。


種類: 原著論文/生物-生態
Title:  Temporal and spatial dynamics of an old-growth beech forest in western Japan
巻頁: J For Res 21 (2): 73-83
題名: 西日本のブナ原生林における時系列的および空間的動態
著者: Ariya Uyanga・濱野研也・牧本卓史・木下秋・赤路康朗・宮崎祐子・廣部宗・坂本圭児
所属: 岡山大学大学院環境生命科学研究科
抄録:西日本のブナ原生林の林冠木を対象として,年輪年代学的手法によってその動態と撹乱の関係を検討した。齢構造から,ブナ林冠木は持続的に定着した個体によって成り立っていたのに対して,ホオノキ林冠木はある時期に一斉に定着した個体から成り立っていることがわかった。年輪幅の変動解析から,ホオノキが一斉に定着した時期以降にはかく乱頻度が低く,ホオノキは稀に起こる大きなかく乱によって一斉に定着したものと考えられ,そのようなかく乱が林冠層の多様性を維持していると考えられる。林冠木の空間分布から,ブナ林冠木がランダム分布を示すのに対し,ホオノキ林冠木は大きな集中分布を示した。以上から,ブナ林冠木が小さなかく乱を利用して持続的に定着して林冠木に達するのに対して,ホオノキ林冠木は稀に起こる大きなかく乱を利用して一斉に集団で定着し林冠木に達するものと考えられる。


種類: 原著論文/生物-生態
Title:  Changes in spatial patterns of sika deer distribution and herbivory of planted seedlings: a comparison before and after deer population control by culling
巻頁: J For Res 21 (2): 84-91
題名: シカの分布と苗木食害の空間パターンの変化:誘引狙撃による個体群管理の実施前後での比較
著者: 榎木勉・矢部恒晶・小泉透
所属: 九州大学演習林
抄録: ニホンジカ(以下シカ)は植栽した苗木に甚大な被害を与えることがある。誘引狙撃によるシカ個体群管理の効果を評価するために、九州の冷温帯針広混交林において、シカの分布と苗木食害の空間パターンを誘引捕獲の実施前後で比較した。2011年の4、6、10月に誘引狙撃法による捕獲を1km2の範囲で実施し、それぞれ5頭、4頭、2頭を捕獲した。捕獲実施前の自動撮影カメラによるシカの撮影頻度はシカの推定密度に対応した空間パターンを示した。苗木は植栽直後からシカによる食害を受けた。食害を受けた苗木の数は、時間経過とともに増加し、その増加は特に冬期で大きかった。年度末における苗木食害数の積算値はシカの撮影頻度が大きい場所で多かった。捕獲実施年では、誘引捕獲を実施した調査区中心付近におけるシカの撮影頻度と食害数が減少した。捕獲翌年の食害数は捕獲前年と同程度になったが、撮影頻度は低いままだった。これらの結果から誘引捕獲の効果は出現頻度については1年、食害については数ヶ月の期間で数値を減らす効果があったと考えられる。


種類: 原著論文/生物-生態
Title:  Ecological implications of mammal feces buried in snow through dung beetle activities
巻頁: J For Res 21 (2): 92-98
題名: 埋雪された哺乳類糞の生態学的意味:食糞性コガネムシの資源利用を通して
著者: 江成広斗・小池伸介・坂牧(江成)はるか
所属: 山形大学農学部
抄録: 初春、多雪地域では埋雪された多量の哺乳類の糞は融雪とともに地上に出現する。本稿では、種子二次散布や腐食連鎖において重要な役割を担う食糞性コガネムシ(糞虫)の資源利用の観点から、冷温帯林におけるこの埋雪糞の同時出現の生態学的な意味を評価した。2012年と2013年の5月、本州北部の多雪帯における複数の異なる森林タイプにおいて、ニホンザル・カモシカ・ノウサギの埋雪糞を誘因餌としたトラップを設置し、糞虫の誘因可能性や糞選好性を評価するカフェテリア実験を行った。その結果、12種の糞虫が誘因され、埋雪糞は春季に活動する糞虫にとって有用な資源になりうることが示唆された。また、多くの糞虫は明瞭な糞選好性を示した。カモシカ埋雪糞は、住み込み屋(dwellers)やトンネル屋(tunnelers)を含む幅広い糞虫にとっての利用可能な資源となり、糞虫バイオマスの維持に貢献している可能性がある。豊富な糞供給が期待される若齢広葉樹において、埋雪糞を利用する糞虫種数は最多ではなかったが、トンネル屋は頻繁にその森林を利用し、その中でセンチコガネ属Phelotrupesはニホンザル糞を選好した。この結果は、冷温帯林の植物更新において重要な意味を持つ「時間差のある哺乳類と糞虫の生物間相互作用」の成立を示唆するものである。すなわち、秋にニホンザルに一次散布される動物散布種子は、この期間に活動を休止する糞虫に二次散布される機会は乏しいものの、雪によるカバーによって一次散布種子の捕食は回避され、春に多量に出現する糞虫によって埋土される可能性がある。


種類: 短報/社会経済-計画-経営
Title:  Comparative analyses on the cycle time, productivity, and cost between commercial thinning and clear-cutting operations in Nasu-machi Forest Owners’ Co-operative, Tochigi Prefecture, Japan
巻頁: J For Res 21 (2): 99-104
題名: 那須町森林組合における利用間伐と皆伐作業のサイクルタイム、生産性、コスト比較分析
著者: 水庭誼子・仲畑力・有賀一広
所属: 宇都宮大学農学部
抄録: 本研究では,緩・中傾斜地で行われた皆伐作業の時間観測調査を行い,これから皆伐作業に取り組む素材生産業者が利用間伐との違いを容易に把握することができるよう,サイクルタイム,生産性,コストを比較分析した。皆伐の伐倒作業のサイクルタイムは利用間伐の伐倒作業よりも短かった。緩傾斜地における皆伐の造材作業のサイクルタイムは中傾斜地における皆伐,また利用間伐の造材作業よりも短かった。しかしながら,中傾斜地における皆伐の造材作業のサイクルタイムは利用間伐の造材作業と同程度であった。中傾斜地の搬出作業のサイクルタイムは推定した搬出作業のサイクルタイムの中では最も短かった。素材材積0.5m3/本で搬出距離を変化させた場合の作業システムコストは,緩傾斜地における皆伐作業が最も低く,次いで中傾斜地における皆伐作業,そして機械化・従来型の利用間伐であった。従来型利用間伐の作業システムコストは,低い機械経費により,素材材積が0.3m3/本より小さい場合には,機械化利用間伐を下回った。


種類: 短報/生物-生態
Title:  First report of trunk rot caused by Fomitiporia torreyae in Kyoto prefecture on cultivars of Japanese cedar with no relatedness to ‘Sanbu-sugi’
巻頁: J For Res 21 (2): 105-109
題名: サンブスギ以外のスギ品種における非赤枯性溝腐病が初めて京都府で発生
著者: 太田祐子・木村恵・服部力・幸由利香・遠藤良太
所属: 森林総合研究所
抄録: スギ非赤枯性溝腐病は、チャアナタケモドキ(Fomitiporia torreyae)を病原菌とする辺材腐朽病である。千葉県山武地方のスギの挿し木品種であるサンブスギに多発する病害とされ、これまで千葉県と茨城県外からは報告がなかった。近年京都市内のスギ林において非赤枯性溝腐病に類似する被害が発見された。そこで、その病原菌を明らかにし、京都市内の罹病スギとサンブスギの血縁関係をマイクロサテライトマーカーを用いて調べた。その結果、病原菌は非赤枯性溝腐病菌のチャアナタケモドキであることが明らかになった。供試した千葉県のオリジナルのサンブスギ個体25個体は同一遺伝型を有した。京都市内の罹病個体は異なる遺伝型を示し、京都市内の罹病スギと千葉県のサンブスギの間に血縁関係は認められなかった。本報告は、千葉県と茨城県外から、サンブスギ以外のスギ品種における初の非赤枯性溝腐病の報告であり、本病の分布地域および罹病品種はより広範にわたる可能性を示した。


種類: 短報/生物-生態
Title:  Ant abundance increases with clearing size
巻頁: J For Res 21 (2): 110-114
題名: 伐採ギャップのサイズ増加に伴うアリの個体数と種多様性の増加
著者: Adam Véle・Jaroslav Holuša・Jakub Horák
所属: Czech University, Czech Republic
抄録: Ants are an important part of biodiversity and are useful bioindicators. Our aim was to determine whether ant species richness and composition differ among large clear-cuts (ca. 3000 m2), small forest gaps (ca. 400 m2), and areas of mature forest. The research was conducted in a large plantation of Picea abies in the Jizerske Mountains in the Czech Republic at an elevation of ca. 900 m a.s.l. Ants were sampled using pitfall traps in three areas, each of which had a large clear-cut, mature forest, and gaps; a randomized complete block design was used. Species richness and composition of ant assemblages differed significantly among plots in the three treatments. The results showed that ant abundance and diversity were similarly low in small gaps and in closed-canopy mature stands; in comparison, large clear-cuts supported significantly higher species richness, more complex species composition, and a higher abundance of ants. Six species were found in large clear-cuts, but only one and two species were collected in small gaps and mature forests, respectively. Our findings suggest that small-scale forest management is not suitable for maintaining ant diversity.

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