Journal of Forest Research, Vol.27, No.3(2022年6月)

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Can treeshelter rescue reforestation under deer foraging pressure? Effects on seedling growth, protection, and decision making

ツリーシェルターはシカ食害圧下での再造林を可能にするか苗の成長や食害防止意思決定への効果

 

種類: 特集/巻頭言

Title: Can treeshelter rescue reforestation under deer foraging pressure? Effects on seedling growth, protection, and decision making

巻頁: J For Res 27 (3): 169-170

題名: ツリーシェルターはシカ食害圧下での再造林を可能にするか?苗の成長や食害防止,意思決定への効果

著者: 安部哲人,大谷達也,梶本卓也

所属: 森林総合研究所九州支所

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2022.2064064

 

種類: 特集/総説

Title: Effects of treeshelters on seedling performance: a meta-analysis

巻頁: J For Res 27 (3): 171-181

題名: ツリーシェルターが苗の成績に与える効果のメタ解析

著者: 安部哲人

所属: 森林総合研究所九州支所

抄録: ツリーシェルターはさまざまな環境で使用されているが、効果的な場合もあれば、そうでない場合もある。そこで、ツリーシェルターの苗に対する効果を明らかにするため,系統的レビューとメタ解析を行った。メタ解析用ではツリーシェルターに関する296本の文献のうち、139本から苗の死亡率,食害率,伸長成長,直径成長のデータを抽出した。文献の質は解析結果に影響を与えていなかった。多くのサブグループ解析で死亡率、食害率、伸長成長はツリーシェルターによる改善効果が認められた。ただし、一部のサブグループでは効果が変わるものがあり、例えば針葉樹に限定すると死亡率はツリーシェルターの影響を受けておらず、通気口つきシェルターでは直径成長が促進されていた。また、多くのサブグループでは負の効果の研究が有意に少ない公表バイアスが認められた。このことは、メタ解析で明らかになったツリーシェルター効果は植物生理学的に理に適っているものの,その効果が過大評価されている可能性を示します。また、ほとんどのサブグループで異質性が高く、解析しなかった要因が効果のバラツキに影響していることが示唆された。ツリーシェルターの研究事例は、ナラ属の樹種や温帯域など特定の条件に集中しており、それ以外の条件はリサーチギャップとなっている。異質性の低いメタ解析を行うためには、こうしたリサーチギャップの研究を増やす必要がある。

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2021.1992700

 

 

種類: 特集/原著論文

Title: A practical technique for estimating deer appearance frequency and cedar sapling damage in young plantations protected by tree shelters in western Japan

巻頁: J For Res 27 (3): 182-190

題名: 西日本のツリーシェルター施工スギ植栽地におけるシカ出現頻度および苗木被害の実務的な推定方法

著者: 大谷達也, 米田令仁, 野宮治人

所属: 森林総合研究所四国支所

抄録: 下草の食痕、樹皮剥ぎ、および獣道といったフィールドサインによって、ツリーシェルターで防護されたスギ植栽地におけるシカ出現頻度および苗木被害を推定する簡便で実務的な方法を開発した。四国内の29カ所の皆伐・新植地において、カメラトラップによってシカ出現頻度を記録し、その辺縁部に設置した3つのトランセクト(2m×50m)でフン、足跡、獣道、および食痕のある下草といったフィールドサインを記録した。シカ出現頻度は、3ランクに区分した食痕付き植物種数(0、1、2種以上)から三次式によって予測できた。この方法では、5m区画にある食痕付き植物がすべて同じ種かどうかを判断すればよいので、植物種を同定する必要はない。ツリーシェルターで防護されたスギ苗の被害を九州・四国の36カ所で調べ、あわせて前述のフィールドサイン調査を行った。深刻な被害を受けた苗木の割合は、ある/なしにまとめた樹皮剥ぎおよび獣道の指標からロジスティック回帰によって予測できた。西日本のツリーシェルター施行スギ植栽地において森林管理者がフィールドサインから指標を算出することによって、シカ出現頻度が比較的に低い状態にあることや苗木被害が深刻になるリスクを知ることができる。

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2022.2059734

 

 

種類: 特集/総説

Title: A review of challenges and future pathways for decision making with treeshelters – A German and European perspective

巻頁: J For Res 27 (3): 191-199

題名: ツリーシェルター使用の意思決定に関する課題と今後の道筋の検討:ドイツとヨーロッパの展望

著者: Yannic Graf, Sebastian Hein, Anton Sebastian Schnabl

所属: University of Applied Forest Sciences Rottenburg, Germany

抄録: Since the invention of treeshelters in Europe during the late 1970s new views on them have emerged. We identify critical challenges and propose new pathways towards a ‘plastic-reduction strategy in forestry’ by analysing available products on the European market, by raising questions on legal aspects at the end of their service life and by considering case studies of German plantations, calculating their costs with respect to subsidies. We point to new tools for complex decision-making with treeshelters and fencing as two selected protective measures. Our findings show that on the European market, there are 161 different types of treeshelters available. There are five groups of material types ranging from polypropylene and compostable plastics to shelters made from wood, paper or jute. As for most material types, there is not certification for biodegradation under outdoor temperate forest conditions. However, a recent survey from Germany reveals that collecting activities are insufficient and not in line with the laws for forestry, nature protection or the circular economy. An analysis of state subsidies for treeshelters show that in Germany oak plantations up to 85% of the total costs are subsidised. Moreover, the costs of removal have been integrated insufficiently and there are no provisions that force forest owners to remove materials after they have been used. A comprehensive strategy for European forestry should also consider innovation of new treeshelters that are made from fully bio-based material, are fully biodegradable under forest conditions, function as classical shelters and show better performance in life-cycle assessments.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2022.2029281

 

 

種類: 特集/短報

Title: Survival and growth of Japanese cedar (Cryptomeria japonica) planted in tree shelters to prevent deer browsing: a case study in southwestern Japan

巻頁: J For Res 27 (3): 200-205

題名: シカの食害を防ぐツリーシェルターを設置したスギの生残と成長:西南日本での事例研究

著者: 野宮治人,安部哲人,金谷整一,山川博美,大谷達也,酒井敦,米田令仁

所属: 森林総合研究所 九州支所

抄録: 林業では,大型草食動物による苗木の食害を防ぐために,ツリーシェルターが使用されている.一般に,苗木がツリーシェルターの中にある間は食害を防ぐことができるが,場合によってはツリーシェルターの効果が発揮できないことが観察されている.本研究では,シカの食害に対するツリーシェルターの保護能力を明らかにするため,シカ密度の高い西南日本の42地点において,スギ植栽時に設置して2~7年のツリーシェルターの状態を調査した.その結果,ツリーシェルターが失敗した場合には3つの理由があることがわかった.まず,シェルターが倒れたり傾いたりして,中の苗木を保護できなくなったこと.2つ目は,シェルター内の苗木が植えてから比較的短期間で枯れてしまったこと.3つ目は,おそらく最も重要なことだが,苗木がシェルターの上部を超えて伸びた後で,シカが食害したことである.被害率と植栽後の年数には相関がないことから,苗木がシェルターからはみ出した直後に被害が発生したと考えられる.日本で普及している高さ140cmのシェルターでは,シカによる食害を完全に防ぐには短すぎるのかもしれない.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2022.2059735

 

 

種類: 特集/原著論文

Title: The combined effects of tree shelters, large stock and vegetation control on the early growth of conifer seedlings

巻頁: J For Res 27 (3): 206-213

題名: 針葉樹苗木の初期成長に対するツリーシェルター,大苗,植生管理の組合せ効果

著者: 八木貴信

所属: 森林総合研究所九州支所

抄録: ツリーシェルターは植栽苗木の初期生存および成長の促進,獣害抑止に効果的な一方,コストが高い.コストに見合う効果が発揮できるように,シェルター使用による利得を最大化する森林施業が求められる.本研究は,苗木初期成長に対するツリーシェルターの効果が,大苗植栽および植生管理との組合わせによって増強されるかどうかを,防鹿柵を設置したスギ造林地での苗木植栽から3成長期間にわたる3要因分割区法実験によって検討した.植生管理は労力軽減のために坪刈りと筋刈りの組合わせによって行った.実験は,ツリーシェルターが苗木の初期樹高成長の促進にきわめて有効であることを示した.すなわち,植栽から3成長期後には,シェルター施工木の樹高は,平均して,シェルター非施工木の樹高の1.5倍になり,施工木のほぼ2/3がシカの採食高を抜け出したのに対し,非施工木にそのような個体はなかった.大苗植栽と植生管理の実施も苗木樹高にプラスの効果をもたらした.しかし,これらの施業をツリーシェルターと組合わせると,その苗木樹高へのプラスの効果はさらに大きくなり,防鹿柵がない場合に,苗木の樹冠頂部がシカ食害に暴露されることになる期間を短くした.以上のように,本研究によって,ツリーシェルター,大苗植栽,植生管理の組合わせが,ツリーシェルター施工による利得の最大化に効果的であることが明らかになった.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2022.2048442

 

 

種類: 特集/短報

Title: Microclimate for Cryptomeria japonica seedlings in treeshelters  ̶  Mitigation of severe condition by seedling transpiration

巻頁: J For Res 27 (3): 214-221

題名: スギ苗に対するツリーシェルター内の微気象 ‐苗の蒸散による過酷な状態の緩和‐

著者: 米田令仁,大谷達也,安部哲人,野宮治人

所属: 森林総合研究所四国支所

抄録: ツリーシェルター内の微気象がスギ苗(Cryptomeria japonica)の成長に影響があるか調べた.一般に使用されているポリプロピレン製のツリーシェルター内の気温(T),相対湿度(RH),光合成有効放射量(PAR)を測定した.大気の飽差(VPD)はTとRHの測定値から算出した。測定の結果,シェルター内のスギ苗よりも高い部分ではTやVPDがツリーシェルター外よりも高い値を示した.しかし,苗木の樹冠内のTの上昇は少なく,ツリーシェルター内外のTの差が10.3℃だった8月でも2.7℃であった.苗木の樹冠内のVPDは夏はツリーシェルター外より低い値を示し,降雨量が少なくRHが減少した際に増加した.スギ苗無しの状態でシェルター内の微気象を測定した結果,スギ苗がある状態よりも高いTとVPDを示した.これらの結果から,水の供給が十分であれば苗木の葉からの蒸散によってシェルター内ではTとVPDの上昇が緩和され,スギは生育できると推察された.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2022.2060906

 

================(特集ここまで)================

 

 

種類: 原著論文/Silviculture and Plant Sciences

Title: Relationships between tree-community composition and regeneration potential of Shorea trees in logged-over tropical rain forests

巻頁: J For Res 27 (3): 222-229

題名: 伐採後熱帯二次林における樹木群集組成とShorea属の更新可能性との関係

著者: 澤田佳美,今井伸夫,竹重龍一,北山兼弘

所属: 京都大学大学院農学研究科

抄録: ボルネオ島の面積の約半分は木材生産林であり、択伐の影響を受け、広大な面積が二次林となっている。伐採後二次林の林冠の群集組成は、過去の伐採強度に依存して、原生的な林分からパイオニア樹種優占林分さらに林床がコシダに覆われた林分(劣化林)にまで大きく変異することが分かっている。しかし、残存林分の更新可能性が林冠の群集組成とどのような関係性を持っているのかは未解明である。そこで本研究では、伐採後二次林の原生林からの組成的距離と原生林の代表種であるShorea属の更新可能性との関係を明らかにすることを目的とした。更新可能性を示す指標として、Shorea属のサイズ構造に基づいて算出した歪度(値が正の場合、左偏りの分布、つまり、後継樹の割合が多い個体群であることを示す)と実生数とを用いた。原生林的な林分から劣化林までShorea属の歪度は正の値を示し、原生林的な林では実生数とともに高い値であったが、これらの更新可能性は、組成的距離が大きくなるにつれて指数関数的に急激に低下した。林冠にパイオニア樹種が多く混成し、Shorea属成木が減少したような中程度の劣化林でも、Shorea属の更新可能性は大きく低下していることが示された。

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2021.2015830

 

 

種類: 原著論文/Silviculture and Plant Sciences

Title:  Forest regeneration inhibition in a mixed broadleaf-conifer forest under sika deer pressure

巻頁: J For Res 27 (3): 230-235

題名: ニホンジカの圧力下での針広混交林における森林更新阻害

著者: 辻野 亮, 松井 淳

所属: 奈良教育大学自然環境教育センター

抄録: 奈良県大峯山の針広混交林においてニホンジカCervus nippon圧力下での樹木の更新と森林構造を調べるために、0.0176 haの防鹿柵で囲まれた面積を含む1.08 haの森林調査区を設置し、2005〜2006年と2015〜2016年にDBH (胸高直径) または樹高を測定した。ほとんどの種で小木 (DBHで10 cm未満) は、アセビPieris japonicaを除いてほとんどないか全くなかった。稚樹 (50 cm ≤ 樹高 < 130 cm) の生育密度は、2005年には防鹿柵内と柵外で大きな違いはなかったが、2015年には大きな違いがあった。風による攪乱によって大径木が倒れたために、胸高断面積が2005年の53.3 m2/haから2015年の52.5 m2/haに1.6%減少した。柵外では、アセビ以外の樹木の年間死亡率 (11.7%/年) は、アセビ (5.7%/年) よりも有意に高かった。稚樹の年間新規加入密度は、柵内 (1,670.5 本/ha/年) と柵外 (56.5 本/ha/年) の間に大きな差が見られた。風による攪乱で林床の光条件は改善されたが、ニホンジカの圧力の影響で、不嗜好樹種のアセビを除いて、稚樹の生残と生長が阻害されたために、本調査地では嗜好樹種の稚樹が減少し、不嗜好樹種のアセビの稚樹が増加した。

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2021.2019176

 

 

種類: 原著論文/Forest Health

Title: Transmission of Bursaphelenchus mucronatus Mamiya et Enda (Nematoda, Aphelenchoididae) from Monochamus saltuarius (Gebler) (Coleoptera, Cerambycidae) to pine branches via vector’s oviposition wounds in comparison to B. xylophilus (Steiner et Buhrer) Nickle carried by M. alternatus Hope

巻頁: J For Res 27 (3): 236-243

題名: マツ枝におけるカラフトヒゲナガカミキリの産卵痕経由のニセマツノザイセンチュウの伝播 ―マツノマダラカミキリに保持されたマツノザイセンチュウと比較して―

著者: 中山雄介,富樫一巳

所属: 広島大学総合科学部

抄録: 非病原性のニセマツノザイセンチュウと病原性のマツノザイセンチュウはMonochamus属のカミキリムシ成虫によってマツに伝播される。この研究では、ニセマツノザイセンチュウ―カラフトヒゲナガカミキリ系とマツノザイセンチュウ―マツノマダラカミキリ系について、媒介昆虫の産卵行動と日齢に関連させながら、媒介昆虫の産卵痕経由の線虫の伝播と伝播直後の分散を調べた。カラフトヒゲナガカミキリの個々の雌成虫にアカマツの切り枝を与えた。産卵直後に切り枝を25℃に置いた。産卵直後から24時間後までの間に、産卵痕を含む円盤型樹皮サンプル(直径15mm)とその周囲の樹皮と材のサンプルを採取してニセマツノザイセンチュウの伝播数を調べた。ニセマツノザイセンチュウは円盤型樹皮サンプルだけから分離された。ニセマツノザイセンチュウを含む産卵痕の割合は0.27であり、産卵痕あたりの伝播線虫数は平均2.1頭であった。マツノマダラカミキリの個々の雌成虫にアカマツ幹の小丸太を与えると、その産卵行動はカラフトヒゲナガカミキリのそれと違いはなかった。産卵後の0-24時間の間に、マツノザイセンチュウは産卵痕を含む円盤型樹皮サンプル(直径25mm)とその周囲の樹皮と材のサンプルから分離された。マツノザイセンチュウを含む産卵痕の割合は0.31であり、産卵痕内に伝播された線虫数は平均1.0であった。この研究によって、マツノザイセンチュウよりニセマツノザイセンチュウは産卵痕からゆっくりと離れることが示唆された。

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2021.2021639

 

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