Journal of Forest Research, Vol.27, No.6(2022年12月)

種類: 原著論文/Socioecnomics, Planning, and Management

Title:   Evaluating ground disturbance at elephant skid trails, logging roads and log landings under the Myanmar Selection System

巻頁: J For Res 27(6): 409-418

題名: ミャンマー択伐方式におけるゾウ集材路,林道,土場での地表面攪乱の評価

著者: Sie Thu Minn,溝上展也,太田徹志

所属: 九州大学大学院生物資源環境科学府

抄録: 熱帯択伐林が有する様々な生態系サービスを強化するための方策として、低インパクト伐採(RIL)の実施が注目されるようになり、RILの効果を従来からの慣習的な伐採方式(CON)と比較して評価することが求められている.長い歴史を有するミャンマー択伐方式(MSS)では集材にゾウが利用されており,MSSはRILの一形態と考えられてきた.しかしながら,ゾウ集材を伴うMSSが林地へ与える影響について、他国での重機利用の作業と比較してどの程度異なるのかはわかっていない.そこで本研究では,MSSが実行されている4つの林班を対象にゾウ集材路,林道,土場での地表面攪乱を評価し,他国で実施されているCONおよびRILと比較した.その結果,林道および土場での地表面攪乱の平均面積率は,MSSで2.1%および0.4%であり,これらの値は他国のCONおよびRILでの値と有意な差はなかった(p>0.05).一方,MSSにおけるゾウ集材路の攪乱面積率(0.9%)はCON(5.2%)やRIL(4.2%)と比較して有意に小さかった(p<0.05).また,集材路の幅がMSSのゾウ集材(1.0m)と重機集材(CON: 5.5 m, RIL: 4.6 m)で大きく異なることを見出した(p<0.0001).MSSによる地表面攪乱は林道と土場においては他国と変わらないが,ゾウ集材路の幅が他国の重機集材路と比較してかなり狭いことが原因でゾウ集材による地表面攪乱は非常に小さくなっていると結論づけた.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2022.2067618

 

 

種類: 原著論文/Socioecnomics, Planning, and Management

Title:   Environmental themes and ecosystem services in picture books about forests for sustainability education

巻頁: J For Res 27(6): 419-428

題名: 森林を扱った持続可能性教育向けの絵本における環境関連テーマと生態系サービス

著者: Hye-Jung Cho,Jang-Hwan Jo,Naya Choi,Jisu Choi,Wonyong Park

所属: Seoul National University,South Korea

抄録: This study is based on the perspective that picture books about forests can facilitate children’s knowledge and emotions about the forests, functioning as a triggering source to make children act sustainably toward forests. This study used content analysis to explore the presence and association between environmental themes and forest ecosystem services (FES) categories in 169 picture books about forests. The analysis revealed that behavioral themes (e.g. daily environmentally friendly behaviors) and the regulating services (e.g. local climate and air quality control) were less frequently presented in the picture books than other environmental themes and FES. Furthermore, several associations were identified between environmental themes and FES categories. We discuss some implications of the findings for research and practice in using picture books about forests for sustainability education.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2022.2087667

 

 

種類: 原著論文/Forest Environment

Title: A simple system for extracting water from soil and plant substrates –effects of substrate-derived exchangeable hydrogen on isotope ratios of extracted water–

巻頁: J For Res 27 (6): 429-438

題名: 土壌および植物基質の水抽出のための簡易システム ―基質由来交換態水素の抽出水同位体比への影響―

著者: 綾部慈子,柿内秀樹,渡邊博史,藤井正典,永井勝,谷亨

所属: 公益財団法人環境科学技術研究所

抄録: 同位体比分析のために土壌や植物から水を抽出することは,水文学や生態学研究における重要な手段である.現行の水抽出システムは,非効率的か複雑であり,また費用も高い.さらに,試料から抽出した水(抽出水)は,試料に添加した水(添加水;既知濃度の参照試料)に比べ,質量の重い同位体である2H(重水素)の濃度が減少している事が一般的である.本研究では,特殊な装置や器具を用いない簡易な水抽出システムを作成し,そのサンプル処理容量と動作性を評価した.一定分量の1% 1H2HO(重水)を土壌と植物基質に添加し,水分回収率,さらに添加水に含まれる2Hと基質中の交換態1H*との同位体交換について分析した.水抽出システムを使って1% 1H2HOを添加した土壌サンプルを100 ℃,植物サンプルを60 ℃で温めた場合,添加水を100%容量回収するのに3日間要した.抽出水の2Hが基質由来の交換態水素と同位体交換を起こしたため,抽出水の2H濃度は添加水と比べて減少していた.その減少割合は,交換態水素含有量の基質間差に影響を受けていた.本研究で用いた水抽出システムは簡易で低コストであるため同位体比分析への垣根を低くするものであり,また,基質由来の交換態水素量を評価することで水抽出時に生じる2H濃度減少の予測や説明が可能となった.

*有機結合型水素のうち、水分子中水素原子と同位体交換をするもの

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2022.2062815

 

 

種類: 原著論文/Forest Health

Title: Mammal and bird species using cavities among forests of different ages on Okinawajima Island in the Ryukyu Archipelago, Japan

巻頁: J For Res 27 (6): 439-449

題名: 沖縄島の異なる林齢の森林における樹洞利用哺乳類および鳥類

著者: 小林峻,小高信彦,中田勝士,高嶋敦史

所属: 琉球大学理学部

抄録: 琉球列島に位置する沖縄島の北部には,様々な樹洞を利用する動物が生息している.しかし,これらの動物が利用する樹洞や森林の特徴については不明な点が多い.本研究では,沖縄島北部の林齢の異なる自然林において樹洞を利用する哺乳類および鳥類を明らかにすることを目的とした.スダジイ(Castanopsis sieboldii)が優占する4プロット(40年生林1プロット,70年生林1プロット,老齢林2プロット)において,自動撮影カメラを用いて樹洞を利用する哺乳類および鳥類を記録した.40年生林では樹洞が少なく,樹洞の位置も低い位置に限定されており,樹洞を利用した動物も地上性の種のみであった.一方,その他のプロットでは様々な大きさの樹洞が低い位置から高い位置まで存在していたが,ケナガネズミ(Diplothrix legata)やリュウキュウテングコウモリ(Murina ryukyuana)といった希少哺乳類は老齢林でのみ記録された.70年生林では鳥類の種数が最大となり,ホントウアカヒゲ(Larvivora komadori)による営巣も確認された.これらの結果は,樹洞を利用する哺乳類や鳥類が林齢によって異なることを示している.特に老齢林では多様な機能を備え,動物が利用可能な様々なタイプの樹洞が存在していることを示唆している.また皆伐後70年では,樹洞を利用する哺乳類の生息環境としては十分に回復していない可能性が示唆された.森林管理の上では,保全地域の中だけでなく,緩衝地帯においても樹洞を利用する動物に配慮することが求められる.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2022.2060553

 

 

種類: 原著論文/Forest Health

Title:  Influence of clear-cutting, strip-cutting, and logging to construct strip roads on necrophagous silphid and dung beetle assemblages in a conifer plantation

巻頁: J For Res 27 (6): 450-459

題名: 針葉樹植林地における皆伐、帯状伐採および作業道敷設に伴う伐採が腐肉食性シデムシ・糞虫の群集に与える影響

著者: 上田明良,伊東宏樹,金谷整一

所属: 森林総合研究所九州支所

抄録: 皆伐によるインパクトを軽減するため、我が国では帯状伐採が行われてきた。収穫時の作業道敷設に伴う伐採が、しばしば隣接する森林に行われる。これらの伐採施業のインパクトを評価するために、部分的に帯状伐採と皆伐およびいくつかの作業道の敷設が調査開始前に行われた連続する針葉樹植林地林分で、腐肉食性シデムシ・糞虫を捕獲した。非伐採林に多かった5種のうち2種の捕獲数と捕獲虫のバイオマス(乾重)は、幅40 mの帯状伐採地中央で皆伐地(幅60 m以上)の林縁近くやその中央よりも高かった。捕獲虫の群集は、非伐採林と残林帯(帯状伐採における非伐採エリア)で異なっていた。しかし、非伐採林に多かった4種の捕獲数とバイオマスは、帯状伐採地よりも残林帯で高かった。帯状伐採は、森林内の群集やバイオマスから推定される生態系サービスへのインパクトを軽減していたことから、皆伐よりも良い収穫法と考えられた。非伐採林に多かった4種の捕獲数とバイオマスは、幅2.5 m以下の作業道脇で非伐採林よりも低かったが、帯状伐採地よりも高かった。このことから、作業道敷設に伴う伐採は、森林性種や生態系サービスに負に影響するが、その負の効果は40 m幅の伐採よりも小さいと考えられた。

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2022.2062814

 

 

種類: 原著論文/Forest Health

Title: Effects of dinotefuran trunk injection against the red-necked longhorn beetle Aromia bungii (Coleoptera: Cerambycidae) in Japanese flowering cherry trees

巻頁: J For Res 27 (6): 460-468

題名: サクラ類に寄生したクビアカツヤカミキリに対するジノテフラン液剤の樹幹注入の防除効果

著者: 山本優一,金子修治,吉村剛

所属: 大阪府立環境農林水産総合研究所

抄録: サクラ類の樹幹部に寄生したクビアカツヤカミキリ(国内では主に2年1化)の幼虫に対するジノテフラン液剤「ウッドスター」の樹幹注入処理の防除効果を評価した。薬剤は、2019年4月下旬に、試験木20本(処理区)に注入した。2019年及び2020年の4月から5月に、処理区(20本)と無処理区(20本)において、幼虫が1週間あたりにフラスを排出した孔の数(以下、フラス排出あり孔数)を、注入処理前1週間及び注入処理後4週間(2019年)もしくは7週間(2020年)にわたり、1週間ごとに調査した。また、各試験木において、2018年、2019年、並びに2020年に生じた成虫脱出孔(脱出予定孔数を含む)の数を調査した。フラス排出あり孔数は、処理前と比較して、処理4週間後に、処理区全体で21.2%に減少し、無処理区全体では178.9%に増加した。このことから、本処理の防除効率(補正値)は、処理木におけるフラス排出あり孔数の88.2%の減少に相当すると推定された。また、①2019年調査におけるフラス排出あり孔数と、②2019年に新たに形成された成虫脱出孔数を目的変数とした、各一般化線形モデルから、本処理は少なくとも処理後4週間にわたり幼虫の活動を低下させ、その結果、処理翌年(2020年)の脱出成虫数を抑制したことが示唆された。一方,一部の処理木において,処理翌年(2020年)に新たなフラスの排出や成虫脱出孔の形成が確認された。このことは、ジノテフラン液剤の4月下旬処理が、処理当年の成虫(繁殖時期:6月から8月)に産卵された卵から孵化・成長した幼虫の少なくとも一部に対して効果がなかった可能性が示唆された。

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2022.2075524

 

 

種類: 短報/Silviculture and Plant Sciences

Title: Soil nutrient and moisture environments and shoot growth of Quercus crispula canopy trees in two areas that experienced contrasting effects of deer overabundance over an 11-year period

巻頁: J For Res 27 (6): 469-475

題名: シカ排除柵の設置から11年経過した調査区における土壌の養分・水分環境とミズナラ林冠木のシュート成長

著者: 水谷あゆみ,東若菜,金子命,松山周平

所属: 酪農学園大学農食環境学群環境共生学類

抄録: シカ過密地域における下層植生の地上部バイオマスと土壌養分・水分環境の変化が林冠木の成長に及ぼす影響を明らかにするため、シカ過密地域においてミズナラ(Quercus crispula)の林冠シュート成長、下層植生の地上部バイオマス、土壌養分・水分に関する指標値をシカ排除柵の内側(保護区)と外側(対照区)で比較した。対照区の林冠シュート成長は保護区よりも小さかった。下層植生の地上部バイオマス、全炭素濃度、全窒素濃度、無機態窒素濃度は保護区よりも対照区で有意に低かったが、純窒素無機化速度は保護区と対照区で差がなかった。林冠シュート成長の指標は土壌含水率とは有意な相関が認められたが、本研究の設定では土壌含水率と林冠シュートの成長の関係は解明されなかった。シカ過密地域において保護区と対照区の林冠シュート成長に差が生じた原因を明らかにするには更なる研究が必要である。

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2022.2061395

 

 

種類: 短報/Silviculture and Plant Sciences

Title: Characterization of the complete chloroplast genome of Abies sachalinensis and its intraspecific variation hotspots

巻頁: J For Res 27 (6): 476-482

題名: トドマツの葉緑体全ゲノムの特徴とその種内変異ホットスポット

著者: 石塚航,北村系子,原登志彦,後藤晋

所属: 北海道立総合研究機構林業試験場

抄録: トドマツは北海道の主要針葉樹で,生態的にも経済的にも重要である.本研究において,トドマツの葉緑体ゲノムの完全長配列を初めて報告するとともに,ゲノム上における種内変異を検出した.供試したのは,地理的に離れた3地域(北海道東端地域,西地域,高標高地域)の由来個体とした.ハイスル―プットのシーケンサーを用いて,精製した葉緑体DNAから完全長での配列構築を試みるとともに,葉緑体ゲノムにおける変異を特定した.構築された葉緑体ゲノムの完全長配列は環状で,全長は121,265~121,337塩基対だった.また,ゲノム上で94変異が特定され,そのうち52(55%)が一塩基変異(SNP),9(10%)が挿入/決失(In/Del),33(35%)がマイクロサテライト(SSR)だった.塩基多様度の平均は0.00029で,ゲノム内の特定の3領域がSNPのホットスポットとして示された.本研究で報告した葉緑体ゲノム網羅的な変異の情報は,トドマツにおける将来の系統地理研究にとって有益である.

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13416979.2022.2081294

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