Journal of Forest Research Vol 14, No 2 (2009年4月)
種類: 原著論文/社会経済-計画-経営
Title: Effects of moisture in wood materials on the SNR of GPS signals
巻頁: J For Res 14 (2): 63-72
題名: GPS信号のSNRに及ぼす木材水分の影響
著者: 澤口勇雄、根本悠平、立川史郎
所属: 岩手大学農学部
抄録: 本研究は、森林内でのGPS使用で生じるSNRの低下原因を解明したものである。SNRの低下に木材材料はほとんど影響しなかったが、木材水分は顕著に影響した。2 g/cm2の水分抵抗量(Mw)がSNRを10 dB以上低下させた。このMwはスギ樹幹で7 cmの厚さに相当する。樹冠に遮られないい状態でのSNRは20 dB以下なので、10 dBの低下はGPS信号の受信に重大な影響をもたらす。樹冠下でのSNRの低下原因は樹幹と樹冠の水分だが、シミュレーションによるとスギの場合、SNR低下の77.8%が樹幹、8.1%が枝、14.1%が針葉によるものだった。
種類: 原著論文/環境
Title: Patterns of litterfall and return of nutrients across anthropogenic disturbance gradients in three subalpine forests of west Himalaya, India
巻頁: J For Res 14 (2): 73-80
題名: インド西ヒマラヤの3亜高山林における人為撹乱強度の違いによるリターフォールパターンと養分の循環
著者: Sanjay Gairola, Ranbeer S. Rawal and U. Dhar
所属: School of Biological and Conservation Sciences, University of Kwazulu-Natal
抄録: The study was conducted to improve our understanding of the effects of forest disturbance on litterfall and patterns of nutrient return in three subalpine forest ecosystems (i.e. Betula utilis-dominated, Abies pindrow-dominated, and Acer mixed broadleaf) of Indian west Himalaya. Total litterfall (t ha-1 yr-1) ranged between 2.6-3.6 and 2.1-2.6 for pristine and degraded stands, respectively. Whereas total litterfall decrease from pristine to degraded stand was about 25-30% in B. utilis and Acer mixed-broadleaf forests, the level of disturbance did not affect total litterfall in A. pindrow (coniferous) forest. Nutrient (N, P, and K) concentrations in litter components of the forests studied also varied across forest types and disturbance intensities. For pristine stands, among all the forests, return of total nutrients via litterfall was higher. The study revealed that patterns of litterfall and nutrient return in the forests studied were sensitive to intensity of disturbance, although sensitivity varied among forest types and nutrient contents. Increased intensity of disturbance greatly affected the total annual amount of nutrient return in broadleaf forests. Maximum impact was recorded in B. utilis forest with a significant decline in nutrient return from pristine to degraded stands (i.e. 64% for N, 38% for P, and 67% for K). Corresponding values for decline in Acer mixed forest were 17, 13, and 33% for N, P, and K, respectively, whereas in A. pindrow forest N return was 15% higher and P return was 33% lower. This study indicates that the litterfall and litter nutrient concentrations in these forests are sensitive to the intensity of disturbance, which affects the amount of nutrient return. This will have a strong bearing on forest nutrient cycling.
種類: 原著論文/環境
Title: The effects of fire on the regeneration of a Quercus douglasii stand in Quail Ridge Reserve, Berryessa Valley (California)
巻頁: J For Res 14 (2): 81-87
題名: カリフォルニア州クアイルリッジ保護区 (Berryessa Valley)におけるブルーオーク(Quercus douglasii)林の更新に対する火災の効果
著者: José Ramón Arévalo, Pelayo Álvarez, Nelmi Narvaez and Kenny Walker
所属: Faculty of Biology, University of La Laguna, Spain
抄録: Wildfire is an important element in the dynamics of the blue oak (Quercus douglasii) stand. We evaluated the effect of fire in the regeneration of a stand in Quail Ridge. This protected area is located on a peninsula formed by the flooding of Berryessa Valley (California) which has helped it maintain many elements of the native flora. Major vegetation types are blue oak woodland and forest (Q. douglasii, Fagaceae), chamise chaparral (Adenostoma fasciculatum, Rosaceae), and grasslands. In the blue oak stand, 14 plots were randomly located: seven in the burned area and seven outside of the burned areas (control). The effect of fire on sexual regeneration, asexual regeneration, mortality and species composition was analyzed. The fire caused changes in canopy cover, soil cover and litter cover. Asexual regeneration was significantly favored by the fire, but the effect on sexual regeneration was not significant. Fire caused a significant reduction in the basal area of Q. wislizeni and Arctostaphylos manzanita and a reduction in the density of Heteromeles arbutifolia. We concluded that fire does not have a significant effect on the sexual regeneration of Q. douglasii or Q. wislizeni. Fire does stimulate asexual regeneration in both species of oaks, but grazing reduces the regenerative effect of fire. Fire increases regeneration of Arctostaphylos manzanita and Heteromeles arbutifolia by stimulating asexual and sexual regeneration. The occupancies of these chaparral species are further enhanced by their lower palatability compared to both species of oaks.
種類: 原著論文/環境
Title: Effective rainfall seasons for interannual variation in δ13C and tree-ring width in early and late wood of Chinese pine and black locust on the Loess Plateau, China
巻頁: J For Res 14 (2): 88-94
題名: 中国黄土高原に生育する油松、刺槐の早材、晩材のδ13C、年輪幅に影響する降雨季
著者: 是常知美、福田健二、常 朝陽、石 福臣、石田 厚
所属: 東京大学大学院新領域創成科学研究科
抄録: 本研究では、季節的な降水量と早材、晩材の炭素安定同位体比(δ13C)、年輪幅との相関から、油松(Pinus tabulaeformis Carr.)、刺槐(Robinia pseudoacacia L.)の水利用効率、年輪成長の年変動に影響する降雨季を明らかにした。前年1月~当年10月の連続した全組合せの期間(1~22ヶ月)の降水量との相関を調べ、最も相関が高い期間を水利用効率、年輪幅の年変動に最も影響する降雨季とした。成長期の前の乾季(10月~5月)の降水量が、油松早材のδ13Cとの間に負の相関、油松、刺槐の早材幅との間に正の相関をもつこと、当年成長期の降水量が、両樹種の晩材のδ13Cとの間に負の相関、刺槐の晩材幅との間に正の相関をもつことが明らかとなった。また、油松と刺槐の水利用戦略は異なっていた。油松のδ13Cは刺槐に比べて高かったことから、油松の水利用効率は高く、節水型の水利用戦略を有すると考えられる。乾季の降水量が油松、刺槐の水利用効率、年輪成長の年変動に影響していたことから、乾季の降水量はその後の成長期における炭素吸収、肥大成長に重要であることが示唆された。
種類: 原著論文/生物-生態
Title: Secondary dispersal of Dioscorea japonica (Dioscoreaceae) bulbils by rodents
巻頁: J For Res 14 (2): 95-100
題名: 齧歯類によるヤマノイモ(ヤマノイモ科)のムカゴの二次散布
著者: 井上みずき、高橋明子
所属: 秋田県立大学生物資源科学部
抄録: ヤマノイモは種子とムカゴを作る。資源量が大きいムカゴでは、重力による一次散布に加え、齧歯類による二次散布が期待される。本研究では、ヤマノイモのムカゴの二次散布の有無と散布距離への貢献度について検討した。ムカゴを利用する動物を特定するために、自動撮影装置を用い、ムカゴに近づく動物を撮影した。その結果、アカネズミの写真が得られた。二次散布の有無の確認、二次散布距離の推定のために、8カ所に設置した標識済みのムカゴ(747個)の追跡調査を行った。333個のムカゴの移動が確認され、うち10個が発芽した。ムカゴの一次散布距離と二次散布距離を比較するために、0.5, 3.0, 12.0 m の高さから落としたムカゴの一次散布距離を推定し、二次散布距離と比較した。その結果、0.5, 3.0 mの高さから落とした場合、二次散布距離は一次散布距離よりも有意に長かったが、12 mの場合は短かった。一次散布距離・二次散布距離の相対的な関係から、ムカゴが低い位置から落下する場合、齧歯類による二次散布は散布距離の増加に貢献しうるが、樹冠のような高い位置からの落下の場合、二次散布は散布距離の増加にあまり貢献しないと考えられる。以上の結果より、齧歯類により二次散布されたムカゴが、クローンの分散・定着にある程度貢献しうることが示唆された。
種類: 原著論文/生物-生態
Title: Reproduction of a Robinia pseudoacacia population in a coastal Pinus thunbergii windbreak along the Kujukurihama Coast, Japan
巻頁: J For Res 14 (2): 101-110
題名: 九十九里浜海岸クロマツ林内におけるニセアカシアの繁殖様式
著者: 鄭 性喆、松下範久、呉 炳雲、近藤那海子、白石彩水、宝月岱造
所属: 東京大学大学院農学生命科学研究科
抄録:クロマツ海岸林において、ニセアカシアの繁殖様式を調査した。マイクロサテライトマーカーを用いてラメットの遺伝子型を決定した結果から、ニセアカシア集団は、主に水平根の伸長とラメット形成による栄養繁殖により分布域を拡大していることが示唆された。また、調査地内で採集したニセアカシア種子の発芽試験の結果から、発芽能力のある種子の生産量が少ないことが、有性生殖によるジェネットの定着が少ない原因であると推測された。また、隣接するジェネットに属するラメットの分布域は、互いにほとんど重なり合っていなかった。このことは異なるジェネット同士が、互いに排除しあっていることを示している。一方、地中の水平根は、ラメット基部付近で最も太く年輪数も最も多かったが、ラメットから離れるにしたがって太さも年輪数も減少した。この結果は、母ラメットから水平根への光合成産物の供給が数年のみで停止することを示しており、同じクローン内の隣接したラメット間の栄養の転流もその時点で停止することを示唆している。ラメット間の栄養転流が数年で停止するという仮説を提案し、それに基づいてニセアカシアのジェネット間における排他的な水平根の分布パターンについて考察した。
種類: 短報/環境
Title: Rainfall interception in a moso bamboo ( Phyllostachys pubescens ) forest
巻頁: J For Res 14 (2): 111-116
題名: モウソウチク林における樹冠遮断
著者: 小野澤 郁佳、智和正明、小松 光、大槻恭一
所属: 九州大学農学部付属福岡演習林
抄録: 近年、日本各地でモウソウチク林が拡大しており、隣接する天然林や人工林に侵入している。モウソウチク林の樹冠遮断の研究は1例しかなく、そこでは、モウソウチク林の樹冠遮断率は、他の天然林や人工林(n=4)より大きくないことが報告されている。モウソウチク林の樹冠遮断についての情報を蓄積するため、我々は、先の研究と異なる試験地において樹冠通過雨と樹幹流の観測を行った。観測期間の年間の降水量(Rf)、樹冠通過雨量(Tf)、樹幹流下量(Sf)はそれぞれ、2105、1556、322 mm であり、年間樹冠遮断量(I)は228 mm であった。したがって、年間のTf/Rf、Sf/Rf、I/Rf はそれぞれ、73.9、15.3、10.8%であった。I/Rf は降水量が最も少なかった10 月を除き、一年を通して20%以下であった。また、我々は、他の19 の天然林や人工林の樹冠遮断量のデータを集め、本研究で得られたモウソウチク林の結果と比較した。その結果、本試験地におけるモウソウチク林のI/Rf は、他の天然林や人工林のI/Rf よりも大きくないという、先の研究と同様の結果が得られた。この結果は、天然林や人工林がモウソウチク林に置換されたときの水資源量の変化を評価する上で役に立つ。
種類: 短報/生物-生態
Title: Estimating a suitable microsatellite marker set for individual identification and parentage tests of brown bear (Ursus arctos) in the Akan-Shiranuka Region, eastern Hokkaido, Japan
巻頁: J For Res 14 (2): 117-122
題名: 北海道東部阿寒白糠地域のヒグマ(Ursus arctos)における、個体識別および親子識別のための最適なマイクロサテライトマーカーセットの評価
著者: 伊藤哲治、佐藤喜和、間野 勉、岩田隆太郎
所属: 日本大学大学院生物資源科学研究科
抄録: 北海道東部阿寒白糠地域のヒグマにおける、個体識別および親子識別のためのマイクロサテライトマーカーセットの選択のために、24座位のマイクロサテライトマーカーから遺伝学的指標の値および実験誤差を考慮し、最も適切なマーカーセットを選択した。個体識別では、7座位のマイクロサテライトマーカーが選択され、親子識別では、片親が明らかな場合は12座位、両親が明らかでない場合は15座位のマイクロサテライトマーカーの組み合わせを用いることが推奨された。このような適切なマイクロサテライトマーカーセットの選択は、他地域のヒグマ個体群だけでなく、様々な種の研究のための重要なアプローチとなるだろう。
種類: 短報/生物-生態
Title: Cytological study of a male-sterile Cryptomeria japonica that does not release microspores from tetrads
巻頁: J For Res 14 (2):123-126
題名: 四分子から小胞子が遊離しない雄性不稔スギの細胞学的研究
著者: 上馬裕子、吉井エリ、細尾佳宏、平 英彰
所属: 新潟大学大学院自然科学研究科
抄録: 雄性不稔スギ・新大3号の細胞学的特徴を明らかにするため、光学顕微鏡、蛍光顕微鏡を使用して、新大3号と正常個体の小胞子発達過程を観察した。新大3号において、小胞子の発達は四分子期まで正常であったが、四分子を包んでいるカロースが分解されても小胞子は四分子から遊離せず、四分子周辺に正常個体には認められない無定形物質の塊が出現し、次第にそれが増大していった。この無定形物質は、新大3号の小胞子が四分子から遊離しない要因に関与していると考えられる。新大3号においては花粉飛散期まで四分子の形態が維持され、最終的に小胞子は完全に退化した。今回の研究によって、これまで報告されている雄性不稔スギと新大3号の小胞子退化過程が異なることが明らかになった。