Journal of Forest Research Vol 14, No 4 (2009年8月)
種類: 原著論文/社会経済-計画-経営
Title: Threshold price as an economic indicator for sustainable forest management under stochastic log price
巻頁: J For Res 14 (4): 193-202
題名: 木材価格の不確実性下における持続的森林管理に向けた経済指標としての価格閾値
著者: 吉本敦
所属: 統計数理研究所 数理・推論研究系
抄録: 本稿では,木材価格のダイナミックスに対する幾何平均回帰過程
(geometric mean-reverting process)と最適化のための確率動的計画法を用いて、森林管理を持続するための最小伐期齢と価格閾値の探求を行った。ここでは3つの制御(「伐採待ち」、「伐採―植林」、「伐採―放棄」)を考慮した。使用した成長モデルは決定論的なモデルである。1975年~2006年までのスギ丸太の月次データを用いて分析した結果、将来的な回帰平均価格(reverted mean price)が費用を下回る時、丸太価格がその閾値に増加し、近づくにつれ、最小伐期齢は増加し、閾値を超えると減少することが分かった。それに対し回帰平均価格が費用を上回る場合、最小伐期齢は価格の減少に伴い増加し、その後閾値に近づいても増加し続けることが分かった。このような現象は、丸太価格の不確実性を考慮し管理放棄を分析する際、十分利用できる情報であると考える。
種類: 原著論文/社会経済-計画-経営
Title: Object-based forest biomass estimation using Landsat ETM+ in Kampong Thom Province, Cambodia
巻頁: J For Res 14 (4): 203-211
題名: Landsat/ETM+を用いたオブジェクトベースによる森林バイオマス量の推定 ──カンボジア王国コンポントム州を事例に
著者: 加治佐剛,村上拓彦,溝上展也,Neth Top,吉田茂二郎
所属: 九州大学農学研究院
抄録: 森林バイオマスの分布情報は持続可能な森林経営のためだけでなく、薪炭材資源のモニタリングとしても重要である。本研究では、カンボジア王国コンポントム州を対象にLandsat/ETM+を用いて精度の高い森林バイオマス推定マップを作成することを目的とした。推定の際には、ピクセルベースとオブジェクトベースの手法について比較した。オブジェクトベース手法はピクセル情報をもとにオブジェクトを形成し、オブジェクト内の一次統計量およびテクスチャ情報を得ることができる。今回の研究ではLandsat/ETM+のバンド1に対して指数関数を当てはめたときが最も精度がよく(R2=0.76)、ピクセルベースでの推定精度(R2=0.67)とほぼ同等の精度であった。テクスチャ情報は森林バイオマス量と相関がみられたものの、推定精度の向上には貢献しなかった。しかしながら、オブジェクトベース手法はオブジェクト内のピクセルが周辺と比べて均質になるようにオブジェクトを形成するため、森林管理の基礎単位として見なせるかもしれない。そのため、オブジェクトベースとピクセルベースのどちらの手法を用いるかは、必要とする情報に応じて使い分ける必要がある。
種類: 原著論文/環境
Title: Comparison of soil depths between evergreen and deciduous forests as a determinant of their distribution, Northeast Thailand
巻頁: J For Res 14 (4): 212-220
題名: タイ東北部における常緑林と落葉林の分布規定要因としての土壌深度の植生間比較
著者: 村田直樹,太田誠一,石田厚,神崎護,Chongrak Wachirinrat,Taksin Artchawakom,佐瀬裕之
所属: 京都大学大学院農学研究科
抄録: タイ東北部に混在分布している乾燥常緑林、乾燥落葉林の成立条件を明らかにするため、サケラート環境研究ステーションにおいて各林分の土壌深および土壌の物理的特性を測定した。その結果、乾燥常緑林の土壌は乾燥落葉林に比べ有意に厚く、また保水量も大きくなっていた。これらのことから、土壌の保水能力の違いが森林の常緑性、落葉性の決定に関わっている可能性が示唆された。
種類: 原著論文/環境
Title: Exotic Pinus carbaea causes soil quality to deteriorate on former abandoned land compared to an indigenous Podocarpus plantation in the tropical forest area of southern China
巻頁: J For Res 14 (4): 221-228
題名: マキ属在来種の植栽との比較による中国南部の熱帯林地域の荒廃地における外来マツ(Pinus carbaea)植栽による土壌の劣化
著者: Yan-chang Wei, Zhi-yun Ouyang, Hong Miao, Hua Zheng
所属: 中国科学院 生態環境研究センター
抄録: Soil properties under an exotic plantation (Pinus caribaea) and an indigenous plantation (Podocarpus imbricatus) were compared with adjacent secondary forests and abandoned land in the tropical forest areas of Jianfengling National Nature Reserve in Hainan province, southern China. The surface soil (0–0.2 m) under Pi. caribaea has higher bulk density, lower soil organic carbon, total N, total K, available N, microbial biomass carbon, and smaller soil microbial communities (as indicated by soil Biolog profiles) than under Po. imbricatus. Both land use types showed negative cumulative soil deterioration index (DI) compared to secondary forests. However, compared to abandoned land (DI = –262), the soil quality of Po. imbricatus showed improvement (DI = –194) while that of Pi. caribaea showed deterioration (DI = –358). These results demonstrated that these exotic pine plantations can significantly and negatively influence soil properties. By contrast, our results showed that adoption of indigenous species in plantations, or natural regeneration, can improve soil quality.
種類: 原著論文/生物-生態
Title: Vertical and leaf-age-related variations of nonstructural carbohydrates in two alpine timberline species, southeastern Tibetan Plateau
巻頁: J For Res 14 (4): 229-235
題名: チベット高原南西部の高木限界に分布する樹種の葉における非構造性炭水化物含有量の樹冠内での着生高や葉齢による変異
著者: Ming-cai Li, Gao-qiang Kong, Jiao-jun Zhu
所属: 中国科学院 応用生態研究所
抄録: Spatial pattern of nonstructural carbohydrates (NSC) was analyzed in two alpine timberline species (Abies georgei and Juniperus saltuaria) growing at the timberline in Sergyemla Mountain, southeastern Tibetan Plateau. We aimed to examine the effect of canopy height and leaf age on balance between carbon uptake and consumption of timberline tree species in extremely environmental condition. The results showed that no significantly vertical variation in sugars, starch or NSC (soluble sugars plus starch) in A. georgei was found for any aged needles. Also, there were no significant differences among vertical gradients in both current and last-year leaves for J. saltuaria. However, different-aged needles/leaves showed significant differences in NSC concentrations in both A. georgei and J. saltuaria. For A. georgei, needle mean NSC across vertical canopies showed a significant increase from current-year to 2-year needles, followed by a gradual decrease from 2- to 5-year needles, whereas for J. saltuaria, last-year leaves had significant higher NSC except sugars compared with current-year leaves across canopies. The observed trends of NSC along vertical canopy heights and leaf ages suggested that, in extreme environmental condition, not only lightinduced carbon acquisition in photosynthesis but also carbohydrate export from leaves should be taken into account to explain the spatial pattern of NSC.
種類: 短報/社会経済-計画-経営
Title: Relationships of culm surface area to other culm dimensions for bamboo, Phyllostachys pubescens
巻頁: J For Res 14 (4): 236-239
題名: モウソウチクにおける稈表面積と他の稈サイズとの関係
著者: 井上昭夫,管秀雄
所属: 熊本県立大学環境共生学部
抄録: 最も大きいタケの1つであるモウソウチクについて、稈表面積と他の稈サイズとの関係を調べた。熊本県の戸島山にあるモウソウチク林において150本のサンプルを収集した。各サンプルの稈表面積を求め、稈表面積と胸高断面積ならびに稈高と胸高直径の積との関係を解析した。稈表面積と胸高断面積との関係は、べき乗式によって上手く回帰できたのに対し、稈表面積と樹高と胸高直径との積との関係は、直線式によって回帰できた。ここで求めた回帰式は、ともに稈表面積を推定する上で有用であるが、目的や時間、労力に応じて適切な回帰式を選ぶ必要がある。
種類: 短報/生物-生態
Title: Variation in leaf morphology of Quercus crispula and Quercus dentata assemblages among contact zones: a method for detection of probable hybridization
巻頁: J For Res 14 (4): 240-244
題名: 同所的に生育するミズナラ・カシワの葉形態の地理的変異:交雑推定のための手法
著者: 伊藤正仁
所属: 森林総合研究所北海道支所
抄録: 本研究では、ミズナラとカシワの交雑を検出する簡便な手法の確立を目的とし、同所的に生育するミズナラ・カシワについて、葉形態の地域内・地域間の変異を記載した。葉の諸形質にもとづく判別分析により、他方の種の生育していない地域のミズナラとカシワを区別することが可能であった。両種ともに生育する5地域のうち3地域においては、この判別関数によるスコア値は、3またはそれ以上のピークを持つ、広く連続的な値を取った。そして、これらの地域における、両種の中間的な葉形質を持つ個体は、雑種個体と考えられた。一方、他の2地域においては、判別関数のスコア値は2つの集団に分かれており、これらの地域では、両種の交雑頻度は低いものと考えられた。このように、本研究で用いた手法は、両種が生育する地域における推定雑種個体および、交雑頻度の地域間変異を検出する上で有効であることが示された。しかしながら、ミズナラの葉形態には地域間変異の存在する可能性があった。したがって、本手法を用いる場合には、同一地域または限られた地理範囲ごとに、葉形態の分布パターンを解釈する必要がある。
種類: 短報/生物-生態
Title: A comparison of seedling emergence and survival between Quercus glauca and Symplocos prunifolia
巻頁: J For Res 14 (4): 245-250
題名: アラカシとクロバイについての実生の発生および生残の比較
著者: 伊東宏樹
所属: 森林総合研究所多摩森林科学園
抄録: 2種の常緑広葉樹、アラカシとクロバイとについて、実生の発生と初期生残の比較をおこなった。また、発生および生残と環境要因との関係も2種について調べた。調査期間内の実生発生数はクロバイの方がアラカシよりも多かったが、林冠が閉鎖していた本調査林分では、生存率はクロバイの方が低かった。両種の実生の発生と生残についてもっともよく説明できる変数の組み合わせをモデル選択により抽出したところ、アラカシの実生発生数について選択されたモデルは、斜面下部において、また冬季の開空率が大きい場所において実生発生数が多いというものだった。一方、クロバイの実生発生数について選択されたモデルは、急斜面において少なく、冬季の開空率が大きい場所において多いというものだった。実生生残に関しては、アラカシについては斜面位置、クロバイについては夏季の開空率のみを説明変数として含むモデルが選択された。先駆種あるいは遷移中期種と見なされることが多い両種であるが、調査した二次林においては、アラカシの実生の生存率は高く、ツブラジイのような極相種が少ないこともあり、アラカシはクロバイよりも後まで優占を保つことが可能であると考えられた。
種類: 短報/生物-生態
Title: Optimal germination condition by sulfuric acid pretreatment to improve seed germination of Sabina vulgaris Ant.
巻頁: J For Res 14 (4): 251-256
題名: 硫酸処理による臭柏 (Sabina vulgaris Ant.) 種子の最適発芽条件の解明
著者: 田中(小田)あゆみ,田中憲蔵,福田健二
所属: 東京大学大学院新領域創成科学研究科
抄録: 中国半乾燥地で緑化に用いられている臭柏(Sabina vulgaris Ant.)種子の最適な発芽条件を明らかにするため、比重選抜を行なった種子について硫酸浸漬時間(10~120分)、播種温度(10~35度)、光条件(明・暗)の3条件を変えて発芽試験を行なった。播種温度が高いほど発芽率が増加する傾向が見られ、25~30度の温度条件で発芽させた場合に、30日で60%と最も高い発芽率を示した。また、光の有無は発芽率に影響を与えなかった。硫酸への浸漬時間は120分間浸漬したものが最も発芽率が高かった。電子顕微鏡で種皮の状態を観察すると、硫酸処理を行なった種子では、種皮そのものの厚さが減少すると同時に、不透水性の種皮に酸に冒された空間ができ、吸水が容易になると考えられた。以上から臭柏種子の発芽率向上には、硫酸など酸処理で硬実休眠を打破し、25-30度で発芽させるのが有効であると考えられた。