Journal of Forest Research Vol 15, No 6 (2010年12月)
種類: 原著論文/社会経済-計画-経営
Title: Predicting the spatial distribution of major species composition in secondary hardwood forests on Mt. Gozu, central Japan, based on environmental factors
巻頁: J For Res 15 (6): 347-357
題名: 環境因子による樹種構成分布の推定―五頭山周辺広葉樹二次林における主要樹種を対象として―
著者: 龍原哲, 安達悠太
所属: 東京大学大学院農学生命科学研究科
抄録: 本研究では落葉広葉樹二次林の林冠構成種を対象とし、地理情報システムを用いて気候および地形因子から細かい空間解像度で樹種構成の空間分布を推定した。対象地は新潟県五頭山周辺の二次林である。対象地内に100区画を設置し、林冠構成種の樹種構成を調査した。数値地形モデル(DEM)を作成し、DEMから地形因子、水文環境因子、光環境因子を求めた。気候因子はクリギングを用いて内挿した。ブナ、ミズナラ、コナラ、ホオノキ、クリの5樹種の断面積混交率を目的変数として用いた。気候因子のみ、気候因子と地形因子、地形因子のみの3種類の説明変数群を用意した。多変量回帰木を求め、樹種構成の推定精度を検証した。気候因子のみ、気候因子と地形因子の二つの説明変数群から求めた多変量回帰木は地形因子のみの説明変数群から求めた多変量回帰木より高い精度が得られた。気候因子と地形因子の説明変数群から生成された回帰木では暖かさの指数が林型を分類する上で最も重要な説明変数であり、地形因子はその次であった。この回帰木は他の2種類の説明変数群の回帰木より林冠構成種の樹種構成を予測する上で、好ましいといえる。
種類: 原著論文/社会経済-計画-経営
Title: Performance and cost of a new mini-forwarder for use in thinning operations
巻頁: J For Res 15 (6): 358-364
題名: 間伐作業における新しいミニフォワーダの性能とコスト
著者: Raffaele Spinelli, Natascia Magagnotti
所属: CNR, Timber and Tree Institute, Italy
抄録: Two tests were conducted with a new model of mini-forwarder, specifically designed for thinning operations. The tested machine resembles a conventional industrial forwarder, with tandem bogies and central articulation, but is much smaller and lighter. The machine was tested on forest plantations established on ex-farm land: such plantations offer favorable and homogeneous work conditions, which allowed reasonably accurate productivity figures to be obtained with a relatively small number of observation hours (about 10.5 h). Despite the relative inexperience of the driver, the tests indicated a productivity of between 3.1 and 3.8 m3 per scheduled machine hour (SMH) over an extraction distance of about 400 m. Extraction costs ranged from 12.4 to 15.1 € m-3 at the calculated machine rate of 47.6 € h-1. Compared to older models derived from recreation vehicles or tracked wheelbarrows, the machine tested in this study offers a better performance and a much more comfortable workplace, with the operator sitting inside an enclosed and insulated cab. Fitted with four bogies and provided with a much longer wheelbase, the new forwarder is likely to be safer than tracked machines when surmounting obstacles, and it certainly offers a much smoother ride to the operator. Nevertheless, the tested machine is still much narrower than industrial forwarders and does not enjoy the same lateral stability. Hence, the machine is ideal for sneaking between trees and climbing over obstacles, but once on a slope it must be driven straight along the grade and never across it, unless with much caution. Like all hydrostatically driven vehicles, the tested mini-forwarder is not suited to long-distance extraction (>1 km): if run at high speed for too long, its hydrostatic transmission tends to overheat, forcing the operator to make frequent stops.
種類: 原著論文/環境
Title: Effect of increased rainfall on water dynamics of larch (Larix cajanderi) forest in permafrost regions, Russia: an irrigation experiment
巻頁: J For Res 15 (6): 365-373
題名: 降水量の増加がロシア永久凍土地域のグイマツ (Larix cajanderi) 林における水分動態に及ぼす影響-灌水実験によるシミュレーション-
著者: ロペスCML, 城田徹央, 岩花剛, 小出隆広, マキシモフTC, 福田 正巳, 斎藤秀之
所属: 岩手大学大学院連合農学研究科
抄録: 東シベリアのグイマツ(Larix cajanderi)林における水分動態の灌水への影響を調べる為に、2004年の7月から8月にかけて灌水区と無灌水区を設けてそれぞれの樹液流を測定するとともに、気象、土壌水分率、地温の測定を行った。灌水は7月17日から22日にかけて一日20 mmずつ、計120 mm行った。樹液流の測定は各プロットにおいてグイマツ10個体ずつ行い、日群落蒸散量(Ec)に換算した。灌水前には灌水区と無灌水区の蒸散量にほとんど差は見られなかった。無灌水区における森林蒸発散量(Ea)はOhta et al. (Agric For Meteorol 148: 1941-1953, 2008)が算出した値を用い、灌水区におけるEaは灌水区におけるEcと無灌水区におけるEcとの比を用いて算出した。7月から8月にかけての降水量は63.4 mmであったが、凍土からの融解水と灌水による水流入も足し合わせると、7月から8月にかけて無灌水区においては109.9 mm、灌水区においては218.5 mmの水が土壌へ流入したと考えられる。土壌への水流入量には大きな差があったが、無灌水区におけるEc (Ea)は42.6 mm(61.5 mm)、無灌水区におけるEc (Ea)は46.4 mm(71.8 mm)と、大きな差は見られなかった。日群落コンダクタンス(gc)は土壌上層に水が十分に供給され、かつ蒸散要求度が高い期間に上昇した。土壌水と降水のうちEaとして大気にもどる量は無灌水区においてそれぞれ36.9 mmと24.6 mm、灌水区においてそれぞれ34.5 mmと37.3 mmであった。無灌水区においては凍土の融解によって水が供給され、また灌水区においては水の水平移動に伴う流出量(105.6 mm)が大きかったために、無灌水区と灌水区との間でEc (Ea)に差が小さかったことが示唆された。本生態系では降水量が増加すると前年の生長期間に保持した土壌水の利用率が低下すると考えられた。
種類: 原著論文/生物-生態
Title: Mortality of planted Pinus thunbergii Parlat. saplings subject to coldness during winter and soil types in region of seasonal soil frost
巻頁: J For Res 15 (6): 374-383
題名: 季節的凍土地域における冬季間の寒さと土壌タイプに関連した植栽クロマツ苗木の死亡率
著者: 真坂一彦, 佐藤創, 今博計, 鳥田宏行
所属: 北海道立総合研究機構 森林研究本部 林業試験場
抄録: 本研究では,北海道における海岸林造成方法を評価し,また改善を図るため,季節的凍土地域における植栽クロマツ苗木の死亡率に影響を与える要因を検証した。調査地におけるクロマツ苗木の針葉は晩春に赤変するが,これはエンボリズムを示唆する。苗木の死亡率は,植栽直後の冬の寒さの度合い,およびその後の厳寒の経験頻度とのあいだに強い相関が認められた。火山灰客土は当地において土壌改良材としてしばしば用いられるが,凍結した客土はもとの海浜砂よりも融解時期が遅かった。そして客土区に植栽された苗木は,砂地に植栽された苗木よりも被害がひどかった。これは凍土条件におけるクチクラ蒸散によってもたらされる水ストレスを示唆する。それゆえ,火山灰客土は季節的凍土地域に用いるべきではない。地表を木材チップで覆うと,土壌凍結深は浅くなり,苗木の死亡率は低下した。また植栽列も苗木の死亡率に影響し,木製防風柵のそばでは地表の被陰によって土壌凍結深が深く,植栽された苗木の死亡率も高くなった。それゆえ,季節的凍土地域では,木製防風柵などによって被陰される場所への植栽は避けるべきである。これらの結果は季節的凍土地域における森林造成技術の改善に貢献するだろう。
種類: 原著論文/生物-生態
Title: Litter of an alien tree, Casuarina equisetifolia, inhibits seed germination and initial growth of a native tree on the Ogasawara Islands (subtropical oceanic islands)
巻頁: J For Res 15 (6): 384-390
題名: 小笠原諸島(亜熱帯島嶼)における外来木本種トクサバモクマオウのリターが在来木本種の種子発芽と初期成長に及ぼす影響
著者: 畑憲治, 加藤英寿, 可知直毅
所属: 首都大学東京大学院理工学研究科
抄録: 海洋島である小笠原諸島において、外来木本種であるトクサバモクマオウのリターが在来木本種であるヒメツバキの初期定着に及ぼす影響を、野外実験と圃場実験によって明らかにした。その結果、ヒメツバキの種子発芽と実生の初期成長は、トクサバモクマオウのリターによって物理的に阻害されていることが示唆された。また、野外では、リターの物理的な阻害以外の要因によっても、ヒメツバキの初期の定着が阻害されている可能性が示唆された。
種類: 原著論文/生物-生態
Title: Spatial organisation of a bimodal forest stand
巻頁: J For Res 15 (6): 391-397
題名: 二峰性のサイズ分布を示す林分の空間構造
著者: MP Eichhorn
所属: School of Biology, University of Nottingham, UK
抄録: Many populations have a bimodal size distribution, even when composed of a single cohort. In developing forest stands, this pattern is usually attributed to asymmetric competition at canopy closure among trees which have access to the upper canopy and those which have failed to reach it. Nevertheless, alternative explanations for bimodality exist, and in sessile organisms spatial pattern analysis can be used to compare their predictions. A 0.25-ha plot was created in a maturing stand of Asiatic white birch (Betula platyphylla Sukacz.) in Central Kamchatka. All stems >1 cm diameter at breast height (DBH) were fully mapped. Mark correlation analysis revealed size compensation among stems up to 3.5 m apart, providing evidence that competition affected the distribution of stem sizes. The spatial pattern of trees was analysed using the pair correlation function g(r). Large trees (>20 cm DBH) had a dispersed distribution to which a Strauss soft-core Gibbs process model was fitted. This suggested that large trees interacted at scales up to 4.16 m. Small trees (1–20 cm DBH) were distributed randomly, but a cross-pair correlation analysis revealed a greater likelihood of occurrence beginning at 4.3 m from large trees, closely matching the modelled interaction distance. These results are consistent with the hypothesis that asymmetric competition is structuring this bimodal cohort of trees: large stems tend towards a dispersed pattern, exerting competitive effects at scales up to approximately 4 m, whereas smaller stems are more commonly found in the interstices within the pattern of large trees.
種類: 短報/環境
Title: Azimuthal variations of sap flux density within Japanese cypress xylem trunks and their effects on tree transpiration estimates
巻頁: J For Res 15 (6): 398-403
題名: ヒノキの樹幹周囲方向の樹液流変動とその単木蒸散量算定への影響
著者: 鶴田健二, 久米朋宣, 小松光, 東直子, 梅林利弘, 熊谷朝臣, 大槻恭一
所属: 九州大学福岡演習林
抄録: 樹液流計測は単木蒸散量を算定する上で有用な手段である.樹液流計測を用いた既往の研究では,単木蒸散量の算定の際に樹幹周囲変動が考慮されないことが多かったが,いくつかの樹種では周囲変動を考慮しないと単木蒸散量の算定で誤差が生じることが報告されている.そのため,主要な造林樹種の樹液流の樹幹周囲変動を調べることは,その単木蒸散量の算定において重要である.筆者らは,熱消散法を用い,日本の主要な造林樹種であるヒノキの6個体において樹液流の樹幹周囲変動を計測した.その結果,樹幹の周囲方向4方位で樹液流の大きな変動が計測された.ある1方位の樹液流速は,他の方位の100%以上大きかった.筆者らは,樹幹周囲4方位の樹液流速から算定された単木蒸散量と1 – 3方位の樹液流速から算定された単木蒸散量の差を計算した.その差は,樹幹周囲4方位の樹液流速から算定された単木蒸散量に対して,それぞれ30%, 20%, 10%となった.この結果は,ヒノキの単木蒸散量算定の際に樹液流の樹幹周囲変動を考慮しないと大きな誤差を生むことを示唆する.
種類: 短報/生物-生態
Title: Stocks of coarse woody debris in old-growth lucidophyllous forests in southwestern Japan
巻頁: J For Res 15 (6): 404-410
題名: 南西日本の成熟した照葉樹林の粗大有機物の現存量について
著者: 佐藤保
所属: 森林総合研究所
抄録: 南西日本の立地条件の異なるふたつの照葉樹林において粗大有機物の現存量と加入量を測定した。対象とした試験地は急斜面にある綾と流路を伴う平坦面にある大口である。粗大有機物の現存量は,綾では平均36.85Mg ha-1,大口では20.77 Mg ha-1であった。方形区間のバラツキは綾で約8倍の差であったが,大口では40倍以上の開きがあった。枯死率から計算した粗大有機物の加入量は,綾では16年間で36.76 Mg ha-1,大口では11年間で44.11 Mg ha-1であった。粗大有機物の形態を比較すると,両試験地とも倒木が最も大きな割合を占めており,幹折れ,根返りと続いていた。粗大有機物の現存量は地形によっても大きく異なっており,綾では沢から尾根に沿って,大口では流路沿いの立地で多くなる傾向にあった。また,林冠層の閉鎖状況は粗大有機物の多寡に影響を及ぼしており,林冠ギャップ下では閉鎖林冠下に比べて2~3倍の現存量が認められた。これらの結果は,台風撹乱によって大径木が生育できる立地にある尾根や斜面上部での粗大有機物の現存量や加入量が増加しうることを示唆している。
種類: 短報/生物-生態
Title: Winter nitrate uptake by the temperate deciduous tree Quercus serrata
巻頁: J For Res 15 (6): 411-414
題名: 温帯落葉樹コナラの冬季の硝酸態窒素吸収
著者: 上田実希, 水町衣里, 徳地直子
所属: 東北大学大学院生命科学研究科
抄録: 落葉樹の冬季の窒素利用についてはほとんど研究がなされていない。本研究では落葉樹であるコナラの稚樹を対象に硝酸態窒素の吸収試験を窒素の安定同位体で標識された硝酸態窒素を用いて行った。3週間の吸収試験でコナラ稚樹の細根に顕著な量の同位体が検出されたことから、コナラは葉がない冬季にも硝酸態窒素の吸収能力を保持していることが明らかとなった。さらに、顕著な量の硝酸態窒素が吸収されたにもかかわらずコナラの細根には硝酸態窒素は少量しか保持されておらず、硝酸態窒素の同化に必要な硝酸還元酵素の活性が高かったことから、吸収された硝酸態窒素の大部分は同化されたことが示唆された。