Journal of Forest Research, Vol.22, No.2(2017年4月)

種類: 総説/環境
Title: Incongruity between scientific knowledge and ordinary perceptions of nature: an ontological perspective for forest hydrology in Japan
巻頁: J For Res 22 (2): 75–82
題名: 自然に関する科学的知見と一般認識の不一致:日本の森林水文学に対する存在論的視点
著者: 小松光・Jeremy Rappleye
所属: 京都大学白眉センター,京都大学大学院農学研究科
抄録: 森林と水(とくに,渇水や洪水)の関係について,科学的知見と一般認識の間に大きな不一致が存在する.この不一致を,森林水文学者はこれまで,欠如モデルによって解釈してきた.つまり,不一致は,科学的知見の社会への普及活動によって克服されるべきものと見なされてきた.しかし,ある先行研究が,日本において認められるこの不一致について,新しい解釈を提案していた.その解釈では,不一致が近代科学と日本土着文化の対立に起因すると考える.ここで,日本土着文化とは,自然に対する「感情的」な態度を重視するものである.本総説は,この新しい解釈が厳密にどのようなものであるか,種々の研究分野の視点を横断的に使用することで,明らかにした.まず,心理学と哲学を用いて,日本人の「感情的」な態度が,「相互依存的な自己概念」に基づいていることを明らかにした.次に,歴史学の知見に基づき,かつて存在した「相互依存的な自己概念」が,西洋では中世において,「独立的な自己概念」に置き換えられた見出した.そして,近代科学はこの歴史的文脈のうえに,17,18世紀に生まれたものであるため,近代科学は「独立的な自己概念」に基づいた思考原理を仮定しているを主張した.最後に,現代の森林水文学が,「独立的な自己概念」を再生産していることを指摘し,日本においては,森林水文学コミュニティと一般社会の自己概念の違いが,科学的知見と一般認識の違いを引き起こす主要な要因であると結論付けた.以上で示した新たな観点に基づいて,日本の森林水文学の新しい未来展望を提供することも行った.

種類: 原著論文/社会経済-計画-経営
Title: Applying social network analysis to stakeholder analysis in Japan’s natural resource governance: two endangered species conservation activity cases
巻頁: J For Res 22 (2): 83–90
題名: 日本の自然資源ガバナンスにおける利害関係者分析への社会ネットワーク分析の適用―2つの絶滅危惧種保全活動を事例として
著者: 八巻一成
所属: 森林総合研究所北海道支所
抄録: 自然資源の利用と管理をめぐって多様な利害や関心、ニーズを抱いている利害関係者は、ガバナンスを進めていく過程にも深く関わっている。それらの利害や関心、ニーズは多様であることから、政策実施者は対立する利害を調整しニーズを反映しながら、資源保全のための戦略を策定する必要がある。そのためには、意思決定に関わるべき利害関係者は誰なのかを明らかにすることが不可欠である。本研究では、社会ネットワーク分析を用いて、日本の自然資源ガバナンスにおいて考慮すべき利害関係者の特定を試みた。事例として、絶滅危惧種であるレブンアツモリソウとチョウセンキバナアツモリソウを保全する活動を取り上げた。調査データを用いて、3つの社会ネットワーク指標(centrality、core-periphery、factions)について分析した。その結果、利害関係者はネットワーク上の位置に応じて3つのグループ(key、primary、secondary)に分類された。チョウセンキバナアツモリソウの事例では、幅広い分野の利害関係およびすべての主要な(key)利害関係者を意思決定の場に含んでおり、多様な利害関係者を代表し包括するという点では望ましい状況にあった。いっぽう、レブンアツモリソウの事例では、現地で活動している監視員や複数の主要な利害関係者が、意思決定の場に含まれていなかった。今回の分析から、意思決定の場に含めるべき主要な利害関係者を特定することができた。本研究では、社会ネットワーク分析を用いて利害関係者を明らかにする方法の有用性を示すことができた。この成果は、日本の自然資源ガバナンスにおいて、政策実施者が意思決定の場を設立する際に考慮すべき利害関係者を特定するのに役立つであろう。

種類: 原著論文/環境
Title: Radiocaesium transfer from forest soils to wild edible fruits and radiation dose assessment through their ingestions in Czech Republic
巻頁: J For Res 22 (2): 91–96
題名: チェコ共和国における森林土壌から野生の果物への放射性セシウムの移行と経口摂取による被ばく量の評価 著者: Andrea Červinková・Michael Pöschl・Lubica Pospíšilová
所属: Mendel University in Brno, Czech Republic
抄録: Due to the Chernobyl nuclear power plant accident in 1986, the environment of forest ecosystems is still contaminated by radiocaesium (137Cs). Currently the average surface soil activity of 137Cs is 3.87 kBq m-2 in the Czech Republic. Depending on the soil properties of the sample locality, the 137Cs content in selected edible forest fruits and related radiocaesium soil-to-fruit transfer was analysed. In addition, radiation doses through ingestion were estimated with regards to the potential health risk caused by consumption of the fruits. Fruits (blueberry, rowanberry, blackberry and raspberry) and soil samples were collected in some locations of the Jeseníky Protected Landscape Area (PLA), the north-eastern mountains of the Czech Republic most severely contaminated with radiocaesium (137Cs). The average aggregated transfer coefficient (TFag) for radiocaesium (137Cs) reached values ranging from 2.73 × 10-5 to 2.20 × 10-2 m2 kg-1. The values of TFag correlated with the soil reaction, with the content of humus and with the content of clay particles in the soil of the sample areas, that is, r = -0.90 (p < 0.001), r = 0.81 (p < 0.001) and r = -0.68 (p < 0.01), respectively. Only the soil reaction pH (KCl) had an effect on TFag (p < 0.01). The highest radiation dose which the average Czech consumer would receive after consumption of the fruits was calculated as 1.78 × 10-2 mSv year-1, and such a dose of radiocaesium should not present a serious health problem.

種類: 原著論文/生物-生態
Title: Spatial heterogeneity of radiation emission on a secondary mixed forest floor in northeastern Japan after the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant explosions
巻頁: J For Res 22 (2): 97–107
題名: 福島県北東部・落葉樹林における原発事故後の空間線量率の不均質性
著者: 奥田敏統・高田モモ・山田俊弘・野原精一・高原輝彦
所属: 広島大学大学院総合科学研究科
抄録: 福島県北東部の落葉広葉樹が優占する二次林内において、福島原発事故後での空間線量率の空間的不均質性について調査、分析をおこなった。対象とする森林内に20mx20mの調査プロットを設置し、プロット内に出現した直径5cm以上の樹木の位置、胸高直径、1mグリッド毎の空間線量率、および2mグリッド毎に採取した表層土壌の放射性セシウム濃度の測定を行った。その結果、林床の空間線量率は極めて不均質性が高く、樹木の基部(株もと)に近づくほど高くなる傾向を示した。この傾向は落葉樹で平滑な樹皮をもつ樹種(コバノトネリコ、ウリハダカエデなど)で顕著であることが分かった。一方、樹皮が厚く、表面が粗いミズナラ、モミではこの傾向は不明瞭であった。とはいえ、樹木基部近傍域での土壌中の放射性セシウム濃度は樹皮タイプによって顕著な違いを示さなかった。平滑な樹皮は樹幹流による放射性セシウム移動に影響を及ぼしているものと考えられるが、土壌への浸透を助長させ、林内の放射性セシウム濃度の不均質性を高めるまでには至っていないことが示唆された。

種類: 原著論文/生物-生態
Title: Historical logging and current successional status of old-growth Cryptomeria japonica forest on Yakushima Island
巻頁: J For Res 22 (2): 108–117
題名: ヤクスギ天然林における歴史的な伐採の影響と現在の遷移段階
著者: 高嶋敦史・久米篤・吉田茂二郎・溝上展也・村上拓彦
所属: 琉球大学農学部
抄録: 特に人為攪乱後数百年が経過した針葉樹林において,現在の遷移段階を推定することは通常困難である。しかしながら,屋久島のヤクスギ天然林では,17~19世紀の伐採活動によって発生した切株がほとんど朽ちることなく原形を留めて残っている。そこで,これらの切株の調査と現在の林分に対する25年以上の長期モニタリングを行い,ヤクスギ天然林の伐採前の状態を推定するとともに,現在の二次遷移の段階を評価した。その結果,スギ切株のサイズ構造から,切株には最初から生育していて伐採された個体群と初期の伐採後に更新して伐採された個体群の異なる二世代が含まれていることが示唆された。現在のヤクスギ天然林では,林冠構成種の幹本数が減少する一方で下層の広葉樹が増加し,スギの更新はほどんどみられなかった。また,伐採活動が始まる前のヤクスギ天然林では,現在と比べて太いスギの数がより多かったことが明らかになった。現在のヤクスギ天然林のモニタリング結果は,スギを含むすべての針葉樹の間で,いまだに自己間引きが進行していることを示していた。現在のヤクスギ天然林は,伐採後の二次遷移の途中段階にあるが,その過程は調査区間で著しく異なり,それは調査区の立地や過去の伐採強度に依存していた。

種類: 原著論文/生物-生態
Title: Comparative reproductive phenology of subtropical mangrove communities at Manko Wetland, Okinawa Island, Japan
巻頁: J For Res 22 (2): 118–125
題名: 沖縄漫湖湿地における亜熱帯マングローブ群落の比較繁殖フェノロジー
著者: Md. Kamruzzaman・大沢晃・Kamara Mouctar・Sahadev Sharma
所属: 京都大学大学院地球環境学堂
抄録: 亜熱帯地域におけるBrugiera gymnorrhiza、Kandelia obovataおよびRhizophora stylosaの繁殖フェノロジーを5年間にわたって調査し、比較した。これらのヒルギ科マングローブ樹種はK. obovataを除き、一年周期の全般にわたって繁殖器官を生産していた。B. gymnorrhizaの花は一年中観察されたが、特に9月に大量に生産された。一方、繁殖体生産は7月に最も多かった。K. obovataの繁殖器官生産は月単位の特有な周期性を示した。R. stylosaでは花と果実の生産は7月に最も多く、繁殖体の大量生産は9月に観察された。花の生産数はR. stylosaで最も多く、つぎにK. obovata、B. gymnorrhizaの順だった。しかし、生産された繁殖体数は他の2種に比べてR. stylosaが最も少なかった。繁殖体が最も大きかったのはR. stylosaで、他の2種と明確な差があった。多変量回帰分析によれば、3樹種の繁殖器官の生産は月平均気温と日長に特に影響を受けていた。B. gymnorrhiza、K. obovata、R. stylosaにおける繁殖器官平均生産量の全リター生産量に占める割合は、それぞれ37.5%、18.7%、21.5%だった。

種類: 短報/社会経済-計画-経営
Title: Differences in growth responses between Cryptomeria japonica and Chamaecyparis obtusa planted in group selection openings in Kyushu, southern Japan
巻頁: J For Res 22 (2): 126–130
題名: 九州地方における群状択伐後に植栽したスギとヒノキの成長の違い
著者: 伊藤一樹・太田徹志・溝上展也・吉田茂二郎・作田耕太郎・井上昭夫・伊藤哲・岡田広行
所属: 九州大学大学院生物資源環境科学府
抄録: 九州地方に設置した約0.1haの群状択伐地を対象に,群状択伐後に植栽したスギとヒノキの成長量の違いを明らかにした.スギ,ヒノキを植栽木とする群状択伐地をそれぞれ選定し,植栽木の位置,樹高,直径を測定した.樹高と直径については6年生時と13年生時の2度測定を行った.スギについては,樹高の場合で林縁から10mの範囲,直径の場合で林縁から8mの範囲で連年成長量の低下が見られた.ヒノキについては林縁から6mの範囲で樹高と直径の連年成長量に低下が見られたものの,その低下の程度は小さかった.林縁からの最短距離が連年成長量に与える影響を回帰分析により検討した結果,スギでは,林縁からの最短距離が樹高の連年成長量の63%,直径の連年成長量の60%をそれぞれ説明できた.一方で,ヒノキでは,樹高の連年成長量の20%,直径の連年成長量の18%をそれぞれ説明できるにとどまった.以上の結果から,スギと比べて,ヒノキは林縁での連年成長量が低下が少ないと言えた.このことから,0.1haの群状択伐地に植栽する樹種としてはスギよりもヒノキのほうが望ましいと結論づけた.

種類: 短報/生物-生態
Title: The effect of the planting depth of cuttings on biomass of short rotation willow
巻頁: J For Res 22 (2): 131–134
題名: 挿し穂の挿し付ける深さが短伐期ヤナギの初期生産に及ぼす影響
著者: 韓慶民・原山尚徳・上村章・伊藤江利子・宇都木玄
所属: 森林総合研究所北海道支所
抄録: 挿し穂の挿し付ける深さが短伐期ヤナギの初期生産に及ぼす影響を調べるために、オノエヤナギ(Salix sachalinensis)とエゾノキヌヤナギ(Salix pet-susu)を札幌市にある圃場に植栽し、収穫実験を行った。挿しつけには、これまで1年生の20cmの穂を植えることが推奨される。そこで土壌に18㎝ほど深挿した穂と、10㎝の浅挿した穂を比較したところ、2年間の根の生産量は両者の間に差がなかった。また、浅挿しのほうが萌芽枝の数は深挿しより多かった。しかし、深挿しの方が地上部の乾物生産量は浅挿しより40%高かった。この原因には、深挿しすると、穂の大部分が土壌と密接して乾燥しにくいことや、土壌水分が多い深層に根系を分布できたことが考えられる。

種類: 短報/生物-生態
Title: Establishment of early-stage planted seedlings of a native woody species under a closed canopy of invasive Casuarina equisetifolia in the subtropical oceanic Ogasawara Islands
巻頁: J For Res 22 (2): 135–140
題名: 亜熱帯島嶼(小笠原諸島)における侵略的外来木本種トクサバモクマオウの樹冠下における在来木本種の移植稚樹の定着過程
著者: 畑憲治・可知直毅
所属: 首都大学東京
抄録: Extirpation of invasive plants does not always result in successful restoration of native plant communities because it can alter ecosystem function or promote further incursion of other invasive plants. To test whether seedlings of native plants can become established without extirpating invasive plants, we evaluated the survival and growth of seedlings of a native tree species, Schima mertensiana, planted under closed forest dominated by an invasive species, Casuarina equisetifolia in the Ogasawara Islands, an oceanic archipelago in the western Pacific Ocean. The initial establishment of S. mertensiana is inhibited by the highly accumulated litter of C. equisetifolia; therefore, few seedlings and saplings of S. mertensiana were observed in the forest. We planted seedlings of three initial size classes, and their size parameters (diameter at ground level, height, and number of leaves) were monitored for 69 months. More than 75% of the planted seedlings survived during the study period. There were no significant differences in the number of surviving seedlings among the initial size classes. Steady growth of seedlings was observed regardless of initial size class. Our results indicate that planted S. mertensiana seedlings can survive and grow in forests without removing C. equisetifolia, and provide a case study that shows that planted seedlings of a native woody species can establish under a closed canopy dominated by an invasive woody species, at least for several years.

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