日本森林学会誌106巻10号(2024年10月)
[短報] ヤチダモ高齢級人工林の長期動態
―間伐が遅れた林分における立木個体の40年間の成長―
吉田 俊也(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)
キーワード: 広葉樹造林, 渓畔林, 樹冠長, 間伐, 長伐期施業
2024 年 106 巻 10 号 p279-284
https://doi.org/10.4005/jjfs.106.279
[要旨] ヤチダモは,広葉樹の代表的な植栽樹種として早い時代から造林が行われ,高齢級の林分が存在する。本研究では,1924年に植栽され,その後56年生時まで本格的な間伐が行われなかった林分を対象に,直近40年間(56~96年生時)の変化を記述し,ヤチダモ個体のその間の直径成長に影響を与えた要因を明らかにした。96年生時におけるヤチダモの蓄積は190 m3/ha,平均胸高直径は36.9 cmで,林分は主伐が可能な状況に達していた。立木個体の直径成長に対しては,胸高断面積(個体サイズ)および樹冠長率の有意な正の効果が一貫して示された。隣接する立木個体から受ける競争効果は認められなかった。林分をより早く主伐期に到達させるためには,樹高の3分の2程度に達する平均樹冠長率を確保するための間伐が初期に必要と考えられた。一方で,林分の長伐期化をめざすうえでは,とくに大径の立木個体において幹の凍裂が頻出することが懸念された。
[短報] 同一斜面のヒノキ人工林における下層植生の違いが表土流亡に及ぼす影響
渡邉 仁志(岐阜県森林研究所)ほか
キーワード: 下層植生タイプ, 植被率, ヒノキ人工林, 表土移動, リター
2024 年 106 巻 10 号 p.285-289
https://doi.org/10.4005/jjfs.106.285
[要旨] 急傾斜の林地における下層植生タイプの違いが,ヒノキ人工林の表土流亡に及ぼす影響を明らかにするため,同一林分内の同一斜面上に隣接する4種類の下層植生パッチにおいて,表土(細土,石礫,リター)の移動量を比較した。降水量1 mm当たりの細土の移動量(細土移動レート)は,低い順にウラジロ区<草本層区<低木層区<貧植生区であった。細土移動レートは,植生やリターによる地表面の被覆が多いほど低下した。ウラジロ区と草本層区はリター,草本層(≦0.3 m),および低木層(>0.3 m)の植物が地表面を重層的に被覆していることから,表土流亡が発生しにくい下層植生タイプと考えられる。対して,低木層区は,低木層に葉層がみられるが,リターや草本層の被覆は少なく,表土流亡の抑止効果では前2区と貧植生区との中間の傾向を示す植生タイプであった。この結果は,下層植生の管理によって,ヒノキ林下の表土流亡の抑止効果を高め得る可能性を示唆している。
[その他:シンポジウムの記録] 第134回日本森林学会大会企画シンポジウム「山地森林環境の長期的な変化と,それらが水・土砂・流木の流出に及ぼす影響をふまえた災害予測の可能性」開催報告
浅野 友子(東京大学)ほか
2024 年 106 巻 10 号 p. 290-293
https://doi.org/10.4005/jjfs.106.290