日本森林学会誌106巻11号(2024年11月)

[短報] ウルシ種子の選別におけるショ糖濃度が種子の沈降率と発芽率に及ぼす影響

皆川 拓(岩手県農林水産部森林整備課)ほか
キーワード: 種子, 比重, 選別, ウルシ
2024 年 106 巻 11 号 p2295-298
https://doi.org/10.4005/jjfs.106.295
[要旨] 近年の国産漆の需要急増への対応には,ウルシ林の造成や,苗木の増産が必要である。ウルシの種子は休眠性を有し,発芽率が低い。休眠打破処理を行っても,発芽率はばらつき,原因の一つとして,シイナ等の不良種子の混入が想定される。不良種子の除去には塩水による比重選が用いられるが,溶質の比重を高めることで,選別率が向上する可能性がある。そこで本研究では,ウルシ種子の比重選における選別率の向上を目的として,ショ糖を溶質に用いて選別した。その結果,食塩の飽和溶液を超えるショ糖濃度でも沈降種子率は減少し,塩水選では除去できない不良種子を除けることが示唆された。さらに,選別後のウルシ種子の発芽率は,ショ糖濃度に応じて増大した。発芽率の増大は,飽和食塩水を超える比重のショ糖水溶液にて沈降した種子でも見られたことから,飽和食塩水の沈降種子には,不良種子が含まれることが示唆された。

[短報] トドマツ人工林小流域における伐採後の保持木量が硝酸態窒素濃度に及ぼす影響

長坂 有(地方独立行政法人北海道立総合研究機構林業試験場)ほか
キーワード: トドマツ人工林, 小流域, 保持木量, 硝酸態窒素濃度, 保持林業
2024 年 106 巻 11 号 p.299-305
https://doi.org/10.4005/jjfs.106.299
[要旨] 主伐期を迎えている50年生以上のトドマツ人工林を対象に,保持林業が渓流水の硝酸態窒素濃度に及ぼす効果を検討するため,北海道空知地方のイルムケップ火山山麓の流域面積10 ha前後の小流域を単位として伐採実験を行った。流域内に一定量のトドマツ,混生広葉樹を保持する伐採区と,対照区として非伐採トドマツ人工林,天然生広葉樹林流域の計14流域を設定し,施業前後を含む10年間(施業前2~3年,施業後7~8年)の平水時の硝酸態窒素濃度の変化を比較した。保持木を材積割合で45~50%残した流域ではほとんど濃度上昇が見られず,保持材積20~30%では概ね伐採後3年間,濃度上昇する傾向が見られたが,その後の回復過程は小流域ごとに異なっていた。濃度上昇の有無に拘わらず,伐採後5年目以降は伐採前よりも硝酸態窒素濃度が下がる流域が複数見られ,北海道のトドマツ人工林では,保持木の成長回復や下層植生の旺盛な回復が窒素流出を抑制していることが示唆された。

[短報] スギ・ヒノキ人工林における保持林業が鳥類多様性に与える影響

髙木 麻衣那(国立大学法人高知大学農林海洋科学部)ほか
キーワード: 皆伐, 広葉樹, 森林性鳥類, 四国, 生物多様性
2024 年 106 巻 11 号 p. 306-310
https://doi.org/10.4005/jjfs.106.306
[要旨] 保持林業とは,森林主伐時に生物多様性の保全を目的として,樹木をすべて伐採せず一部を残す森林施業のことである。国土の67%を森林が占め,多くの人工林が主伐期に達した日本で生物多様性を保全するために,保持林業が重要な役割を果たす可能性がある。本研究では,皆伐地における広葉樹の保持が森林性鳥類の多様性に与える影響について明らかにした。2023年6月と10月に高知県のスギ・ヒノキ人工林において,保持伐地と皆伐地でICレコーダーを用いて鳥類の音声を録音した。録音データより種数と多様度指数を算出し,広葉樹保持が鳥類多様性に与える影響を明らかにした。その結果,保持林業は,10月にのみ種数と多様度指数を増加させうる事が示唆された。保持林業はスギ・ヒノキ人工林においても森林性鳥類の多様性の保全に寄与しうる。各地で主伐再造林が進むスギ・ヒノキ人工林における保持林業の実践や生物多様性の保全のために,多地点における長期的な調査の意義は大きいだろう。

 

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