私ども日本森林学会は、来る2014年に設立100周年を迎えることとなりました。 前身である、林学会は1914年(大正3年)に、森林の仕組みの解明とその利用を考究する科学者の団体として結成されました。日本では、ヨーロッパを除くと他に例のない、植林による伝統的林業が行なわれてきましたが、林学会はその科学的解明に基づいて、スギ・ヒノキを中心とした我が国独自の近代的林業の確立に貢献しました。1934年には日本林学会と改称、戦中戦後の荒廃した山林に対する、治山や造林の推進のための技術開発に尽力しました。さらに、2005年には、木材生産に加え、森林の多面的機能の積極的評価に基づく、持続可能な森林管理を目指すべく、日本森林学会と改称し、より総合的な森林機能の解明と有効な森林管理を追及してまいりました。 |
森林は二酸化炭素の吸収、豊かな水、美しい自然、豊富な林産物の供給など、様々な面で人間生活を支える、重要な生態系です。我が国は国土の7割が森林であり、私たちはその恵みを潤沢に享受しています。特に、我が国森林のうち4割を占める人工林においては、今日、豊かな蓄積が達成され、資源供給と環境醸成に大きく貢献していることはご承知の通りです。しかし、その高い森林率も、私たちの生活が化石燃料や原子力のエネルギーに支えられることによって維持されていることも事実です。
そうした中、マツノザイセンチュウによるマツ林の減少、薪炭利用の減少による里山生態系の消失、狩猟圧の低下等によるシカ個体数の爆発的な増加など、森林にかかわる多くの問題が発生しています。また、林業経営においては、木材自由化以降の低迷に対し、林業と木材産業再生のためのイノベーションが喫緊の課題となっています。こうした状況を克服するためには、広く一般社会の森林に対する理解を一層高めてゆく必要があります。
一方、世界に目を向ければ、熱帯林の減少・劣化、砂漠化の進行などに起因する、二酸化炭素の増加とそれにともなう地球温暖化や生物多様性の減少など、グローバルで重篤な問題が生じています。よく多くの古代文明の滅亡の原因として、過剰利用による森林喪失が挙げられますが、世界における今日の森林状況は、そうした過去の文明と同じ道を人類が歩んでいるのではないかと疑わせます。
こうしたことから、森林生態系の科学的解明とそれに基づく森林管理は、今日、人類生存の鍵を握っているといっても過言ではありません。すなわち、より良い森林と人間の関係を考究することによって、「緑の文明」を創造することが不可欠と考えます。
そこで、日本森林学会では、設立100周年を記念して、多くの皆様とともに、森林と人類の未来をともに考える機会をといたしたく、統一テーマ「森林と人類の未来」のもと、各種事業の開催を計画しております。
本学会としましては、100年に1度のこの機会を節目に思いを新たにし、研究活動を通じて森林と人類の未来により一層貢献してまいりたいと考えております。
日本森林学会会長 井出雄二